STOと併せて注目のステーブルコイン Fintech協会 落合氏、神田氏インタビュー:フィンテックの今(1/4 ページ)
既存通貨に連動(ペッグ)などして、価格安定を目指すステーブルコインに注目が集まっている。どんな特徴を持ち、金融サービスにどんな影響を与えるのか。
米Facebookが、デジタル通貨「Libra」の構想を発表したことで、既存通貨に連動(ペッグ)などして、価格安定を目指すステーブルコインに注目が集まっている。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は投機的な性質だけが注目を浴びがちだったが、ステーブルコインの普及で金融サービスは変わるのか。フィンテック協会理事の落合孝文氏と神田潤一氏に聞いた。(聞き手はフリーライターの中尚子)
――ステーブルコインはどういったものを指し、暗号資産とはどう違うのでしょうか。
落合孝文氏(以下、落合) 現在普及しているビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は価格が大きく変動するため、決済には向かないという問題がありました。そこで、決済でも利用しやすいように、価値が安定しているコインとして作られたのがステーブルコインです。
このような例として、1枚コインを発行するたびに、利用者から1ドルを保管して価値を裏付ける、法定通貨にペッグするコインが考えられます。Facebookが発行を目指すLibraも、法定通貨や比較的リスクの低い金融資産を裏付けにしているのでステーブルコインの一種である、と一部では考えられています(19年6月の記事参照)。
日本の法律で見ると、法定通貨に紐(ひも)づけられている場合は、暗号資産の規制対象になりません。そのため、事前に法定通貨をチャージした上でステーブルコインを発行する場合は、電子マネーと同じ「前払式支払手段」や「資金移動業」という位置付けになる可能性があります。
また、対価性がないのであれば、規制の対象外であるマイルのような企業ポイントと同じような法的な位置付けになる可能性もあります。スイスのようにステーブルコインのガイドラインを出している国もありますが、日本では法的にどう整理するか、まだ明確には決まっていません。
神田潤一氏(以下、神田) 完全に1つの法定通貨にペッグする場合と、Libraのように複数の通貨にペッグする場合、どちらもステーブルコインと呼べるのかなど、ペッグする通貨や資産によっては位置付けが異なる可能性があります。
また、1つのステーブルコインを発行するのに、完全に1単位の法定通貨を預託するケースと、理論上1つの通貨にペッグするように介入などの形で価格を安定させるようなケース、7〜8割分の通貨を預託するようなケースもあり得ます。仮想通貨にペッグするものをステーブルコインに含むこともあります。つまり、暗号資産から法定通貨までの間は離散的ではなく連続的で、その間をいろいろな形で埋めるような存在のうち、比較的法定通貨に近いものがステーブルコインだと考えると分かりやすいかもしれません。
関連記事
- 4月に始まるSTOは何を変えるのか Fintech協会代表理事の鬼頭武嗣氏インタビュー
2020年4月から金融商品取引法(金商法)に基づき始まる、ブロックチェーン(分散型台帳)を使った資金調達「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」が注目を集めている。今後、STOは日本で普及するのか、また、STOによって資本市場はどう変化するのか。 - Libraを脅威と見る各国 それでも「ダメ」と言えない理由
結局のところ、投機資産として使われる従来の仮想通貨に対し、Libraは本当に使われるかもしれない仮想通貨だ。だからこそ、各国の金融当局はLibraへの警戒を強めるが、Libraが解決しようとしている「皆のための安価、簡便な支払い決済、送金手段の提供」は現代の金融の根本課題でもある。 - Libraは日本で使えるのか? 国家が警戒する理由
世界各国の政治家や金融当局が懸念を表明するLibra。その理由には、プライバシーの問題とアンチ・マネー・ロンダリング対策があるが、最も重要なことは、Libra経済圏が大きくなると、国家の金融政策に影響を与えることだ。 - 2020年に変わる3つのフィンテック関連法改正 Fintech協会理事の落合孝文氏インタビュー
2020年はフィンテック関連でどのような法改正が進むのか。送金サービスを提供する資金移動業が3種類になり、1つの登録で証券、保険の商品などを販売できる「金融サービス仲介業」が登場。そして、給与を銀行振り込み以外で支払える、ペイロールカード解禁が想定される。 - 過疎化、高齢化……地方金融の課題をどう解決するか Fintech協会理事の神田潤一氏インタビュー
人口減少や少子高齢化など多くの課題を抱える日本の地方社会。金融に目を向けて見ても、地域を支えてきた地方銀行の経営は厳しさを増している。こうした地方の課題をフィンテックはどう解決していくことができるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.