新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
新型コロナウィルスの登場によって、今まさに進行形で世界経済はパニックに陥っている。自動車産業も全体としては大変厳しい局面を迎えるだろう。5月発表の各社の決算は多くが赤字に沈むだろう。今手元にある材料で判断する限り、比較的復興が早いと思われるのは、米国と日本になるのではないか?
理想と現実
99年には統一通貨ユーロが生まれ、欧州はひとつになっていくかに見えた。
しかしながら通貨の統一は必ずしもうまくいったとはいえない。域内の国々にはやはり歴然と経済力の差があり、本来それを是正するためのスタビライザーとして為替変動する通貨が存在した。それを統一通貨にしてしまったが故に、為替による経済格差の是正ができなくなった。
共同体を維持するため、欧州委員会は、加盟各国に厳しく、共通の財政規律を求めることになったのだが、経済力の強い国は大きな予算が組めるが、弱い国は当然予算も小さくなる。それは時間が経つほどに国によって国民サービスの差が広がっていくことを意味する。ヒトの移動が自由であれば、なおさら経済力の強い国に多くの人が集まり、税収までもが偏っていく形になったのである。
イタリアのように財政規律を厳しく指摘されて、医療予算すら十分に用意できなかった国からしてみれば、今回の新型コロナで多数の死者が出たことは欧州委員会が招いた人災に見えるだろう。
いざ新型コロナのパンデミックが起きた途端、長い年月を積み上げて作り上げて来た一つのヨーロッパは一瞬で形骸化した。国境は閉ざされ、ヒト、モノ、カネが自由に移動できなくなった。それは高邁(こうまい)な精神によって成立したEUの終わりを告げる不吉な鐘の音だろう。
境目のない自由経済によってあらゆるものを円滑に分配し、相互の幸せを願うために一つにまとまったはずの欧州諸国が、いまエゴを剥(む)き出しにして互いを非難しあっている。いや欧州内部だけではない、「米国がマスクを横取りした」「中国から輸入したマスクやPCR検査キットが使い物にならない」とすでにそれは世界に広がっている。
EUの理念は1つの欧州をスタートに、やがて1つの世界を目指す試みだったはずだ。よくいえばグローバリズムとは国家を超えた1つの世界を求める思想だったはずなのだ。
しかし現実は違う。理念より経済が先行してしまった。ウォールストリートのビジネスパーソンと、日本一人口の少ない青ヶ島村の老人が電子マネーでつながったとしても、その間の富の流れはおそらく一方通行になる。ビジネスパーソンにとっては世界のいずれの地域ともつながることはメリットになるかもしれないが、村の老人にはウォールストリートとつながっても良いことは多分起きない。グローバリズムは富の二極化を生んでしまったのだ。
関連記事
- 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。 - 2020年の中国自動車マーケット(前編)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - 自動車メーカー各社の中国戦略
いまや世界で1年間に販売される新車の3分の1近くが中国での販売となっている。魅力的なマーケットである一方で、中国というカントリーリスクも潜んでいる。今回は日本の自動車メーカーが中国にどんな対応を取るか、その戦略差を比べてみたい。 - 自動車産業の過去・現在・未来
トヨタ自動車の豊田章男社長は「自動車産業はどこの国だって国策事業です」と言った。自動車産業は過去100年、いつだって資本主義を進めて国民を豊かにしてきた。今回はそんな話を書いてみたいと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.