1分1秒を争っているのに、なぜ政治家の仕事は遅くイライラするのか:スピン経済の歩き方(2/7 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療崩壊の危機が連日のように報じられている。こうした事態に対して、国民はどのように感じているのか。政府の対応は「遅い」「危機感がない」といった声が出ているが、なぜそのように感じるのか。筆者の窪田氏は、このように見ていて……。
仕事とは「内部調整」
この構図は、大企業にお勤めの方たちならば思い当たるフシもあるのではないか。大きな組織で何かをやろうと思うと、避けて通れないのが膨大な「根回し」である。「打ち合わせのための打ち合わせ」「社内会議の資料づくりで徹夜」なんて話をよく耳にするように、巨大組織で働く人たちにとって「仕事」と「内部調整」はほぼ同じ意味なのだ。
実際、パーソル総合研究所が6000人のビジネスパーソンを対象に調査したところ、1万人規模の大企業では1年間に約67万時間、約15億円も「ムダな会議」に費やしていることが分かった。これは裏を返せば、大企業で忙しく働く人たちは、この膨大な「ムダな会議」に参加することで給料をもらっているわけなので、「内部調整=主たる業務」という見方もできる。
この傾向は、政府という巨大組織で働く人たちもまったく変わらない。というより、政府の場合はもっと顕著で、法的根拠を確認しながら「調整」を進めるので、ダイヤルアップ接続のネットのようにフリーズしているかのごとくトロい動きになってしまうのだ。そのため、1分1秒を争う緊急事態になればなるほど仕事が遅くなる、という庶民には理解しがたい珍現象が起きる。法律が想定していない状況下で、「調整」が大量に発生するので、閣僚も官僚もそれで忙殺されて、目の前にいる国民を守れない。そんな日本型組織の致命的弱点をリアリティーたっぷりに描いたのが映画『シン・ゴジラ』だ。東京湾に出現した巨大生物を前に、政府内部で調整と法的整備を進めているうち、その巨大生物はサクサクと上陸を果たして、都民に壊滅的な被害をもたらした。
これがフィクションでないことは、東京都と政府の休業要請をめぐる対立を見れば明らかだ。史上初の緊急事態宣言が発出され、医療崩壊に危機感を抱く東京都ではすぐさま休業対象の範囲を発表しようと思っていたが、そこに政府が待ったをかけた。なぜこの緊急時にそんな愚かなことをしたのかというと、法律にそう明記されているからだ。
もともと「休業要請」については、法律で都道府県知事に権限が与えられるはずだった。しかし、政府が7日に新型コロナ対策の指針を改定して、「国と協議の上、外出自粛の効果を見極めた上で行う」の一文を追加したことで、自治体は政府と「調整」をしなくてはいけなくなったのだ。
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