「銀行API開放は、21世紀のATMである」 目処ついた参照系、不透明な更新系(2/2 ページ)
「銀行APIは21世紀のATMである」といわれる銀行API。「6月まで」と政府がKPIを掲げた参照系APIは、ほぼ目処がついてきた。一方で、フィンテックの基盤として期待される更新系APIについては、温度差も大きく、不透明な状況だ。
5月末を期限として進む「参照系API」
政府のKPIでいう「6月までに80行以上」が対応した銀行APIは、「参照系API」という。ATMの機能でいえば、残高照会や通帳記帳に当たるものだ。フィンテック側のプレーヤーでいうと、個人向けのマネーフォワードやマネーツリー、法人向けのfreeeなどが、この参照系APIを利用して、家計簿サービスや法人帳簿記入サービスを提供する。
5月末までに、という期限については、ほぼ達成できそうだと、フィンテック側の各社は話す。「前向きに一緒にやっていこうと 多くの銀行に同意いただいている」(freeeの小村充広執行役員)や、「98%の銀行と接続するという目標を持っている。ほぼ全てと接続できると思っている。ほとんどの銀行が前向き、協力的だ」(マネーツリーのマーク・マグダット常務取締役)(2月25日の記事参照)
一方で、APIの利用料金については銀行間でも温度差がある。GMOあおぞらネット銀行のように完全に無料で提供する銀行がある一方で、相当な金額を提示する銀行もあるようだ。「手数料については、折り合えないというか、Win-Winを見いだせなかった銀行もある」とマネーフォワードの瀧氏は話す。
マネーツリーのマグダット氏は、「APIがフィンテックイノベーションの土台。価格交渉が、このあとも続くようなら進展に課題がある」と懸念する。
先が見えない「更新系API」
料金はともかく、接続の目処は見えた参照系API。しかし、より根本的なイノベーションを生み出すと期待される更新系APIについては、まだ混沌(こんとん)としている。
更新系APIは、ATMでいえば振り込み機能だ。普通預金口座に入っているお金を投資信託に動かしたり、他の口座に振り込みをすることが、ネットを介して別のサービスから可能になる。
ECサイトで買い物をするときも、銀行振込かクレジットカードかの選択肢があれば、クレジットカードを使う人のほうが一般的だろう。これは根本的には、振り込みの手続きが面倒だからだ。更新系APIが整備され、ECサイトなどが実装すれば、こんな状況も一変する。企業の経費精算実務でも、精算管理自体はさまざまなクラウドサービスが登場していきているが、最終的な清算金の振り込みは、別途オンラインバンキングサービスにログインして、登録をしていく必要がある。これも、更新系APIが実装されれば、経費精算サービス自体から振り込み手続きが完了する。
「メガバンクでも、みずほ銀行と三井住友銀行は整備済みだが、ほかは検討中。参照系APIとは温度感は違う。更新系APIの策定状況もアップデートされているが、数としてはまだまだこれから。必ずしも各銀行の開発計画に乗っていない」と瀧氏。更新系のAPIが安価な手数料で提供されれば、さらにキャッシュレス化も進むと見るが、なかなか温度感はそろわない。
マネーツリーのマグダット氏も「更新系は、データのフォーマット標準化も進んでおらず、個別個別。時間がかかるのではないか」と、見通しは不透明だと話した。
関連記事
- 5月に期限が迫る銀行API 現状と課題をマネーツリーに聞く
家計簿アプリの裏側を支えるスクレイピング。これが銀行APIに置き換わる期限が5月末に迫っている。しかし、その進捗は思わしくない。銀行APIの背景から課題まで、アカウントアグリゲーションサービスを提供するマネーツリーに聞いた。 - 誰でも銀行APIを使った開発を試せる GMOあおぞらネット銀行がsunabar提供
銀行APIを無償公開しているGMOあおぞらネット銀行が、さらなる活用を促進するため、自由にAPIを使った開発を試せる実験場「sunabar」を提供する。 - 大垣共立銀行と楽天銀行、銀行APIを使って提携
東海地方を拠点とする大垣共立銀行と、ネット銀行の楽天銀行は業務提携を行い、11月18日から新サービスを提供する。大垣共立銀行の利用者に、楽天銀行の専用口座を通じて、くじの購入や公営競技への入金をやりやすくする。 - 地銀が通帳のアプリ化を進める理由 キャッシュレス決済も影響
地方銀行が紙の通帳に代わり、スマートフォンアプリを使ったデジタル通帳の導入を進めている。銀行側にはどんなメリットがあるのだろうか。 - 2020年に変わる3つのフィンテック関連法改正 Fintech協会理事の落合孝文氏インタビュー
2020年はフィンテック関連でどのような法改正が進むのか。送金サービスを提供する資金移動業が3種類になり、1つの登録で証券、保険の商品などを販売できる「金融サービス仲介業」が登場。そして、給与を銀行振り込み以外で支払える、ペイロールカード解禁が想定される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.