中国人頼みだった観光業界に激震 「インバウンド消費低迷」に追い打ちをかけた新型コロナ:新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク(4)(3/3 ページ)
新型コロナウイルスが引き起こした観光業への大打撃――。もともと中国人観光客頼みだったことも問題ではあるが、今後の中国との付き合い方を考えてみる。
「五輪延期」の経済損失は6408億円
2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)による経済損失が全世界で4兆3600億円というのは、オーストラリア(豪州)の経済学者が弾き出した数字で、今回の新型肺炎も各国さまざまな機関や個人が推計を挙げている。関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、東京五輪・パラリンピック大会の1年延期による経済損失は約6408億円に上る。
日本に限って見ても、訪日客の途絶に加え、中国産の食品や部品の出荷停止による影響が出ている。感染の拡大に伴い、政府から自粛要請が出された結果、スポーツやテレビ番組収録の無観客での実施、コンサートやライブ、各種イベントの中止、接待や宴会、飲み会の自粛、夜の飲食店の開店休業状態、学校の休校など、日常生活に大きな支障をきたしている。
日本からの渡航に対して禁止措置をとる国も増え、その逆もある。中国と韓国からの渡航者には2週間の隔離措置をとるとの発表がなされたが、世界的に日本への渡航を延期ないしは中止した人もかなりの数に及んでいる。
このような状況がまだ数カ月続き、技能実習生の数が予定を大きく下まわれば、国産を謳(うた)う低価格食品の生産が維持できず、物価の上昇が避けられない。加えて東京五輪が1年延期されたことは相当な打撃だ。
さらに、五輪のさらなる延期や中止、開催国の変更が本気で話し合われる事態が現実味を帯びてきている。選手やチケット所持者が来日しないことにはまったく話にならないわけで、現にIOC(国際オリンピック委員会)も5月末にはなんらかの結論を出すとの方針を示している。
今回の騒動に対する海外の反応を見ていて明らかなのは、欧米白人社会は依然として、アジアに対して「憧れ」と「蔑視」という矛盾した感情を抱いていて、今回の新型コロナの感染拡大で、ふだんは見えにくくなりつつあった「蔑視」が再び表面化しはじめていることだ。「またアジアが問題を起こしたか」と愚痴をこぼすだけでは済まされず、飲食店が嫌がらせを受け、人が罵声を浴びせられ、さらには暴行を受けるなど、“目に見える差別”が報じられている。
20世紀末のことだが、筆者は在中国大使館の初代メンバーの講演を聞く機会があり、そのときの一節が現在も耳から離れられない。「21世紀の日中関係」について語るよう求められたその元外交官は、「それを推し量るには、20年後の日本と中国がそれぞれどうなっているか予測する必要がある」としたうえで、「中国はだいたい予測できるが、日本のほうは皆目見当がつかない」と語られた。
今思えば、これは不吉な予言で、しかもかなりの精度で当たってしまった。ネットやテレビでは、中国や韓国のマイナス面ばかりが洪水のように垂れ流されているが、われわれは自分たちの足元のほうがより深刻な状態にあることを自覚し、問題点を直視して、糺(ただ)していくことのほうを優先させるべきだろう。隣家の失火をどんなに揶揄(やゆ)しようと、自分の尻についた火は消せないのだから。
いま日中韓の各国民に必要なのは、等身大の自国を直視することであろう。それができれば、社会不安の解消はもちろん、近隣諸国との関係も改善されるはずだ。
著者プロフィール
島崎 晋(しまざき すすむ)
1963年、東京都生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒業(東洋史学専攻)。大学在学中に、立教大学と交流のある中華人民共和国山西大学(山西省太原市)への留学経験をもつ。著書に『目からウロコの世界史』『目からウロコの東洋史』『世界の美女と悪女がよくわかる本』(PHP研究所)、『さかのぼるとよくわかる世界の宗教紛争』(廣済堂出版)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)など多数
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