期待のアビガンが簡単に処方できない理由:専門家のイロメガネ(3/5 ページ)
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。しかし、アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える薬だ。アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクががその理由の一つだ。
奇形児が生まれる薬害は現実に発生している
アビガンの副作用である催奇形性は、珍しいものではない。1960年代には、サリドマイド薬害という事件も起きている。サリドマイドは、不眠症、妊婦のつわりなどに使われていた。サリドマイドの危険性が警告され、ヨーロッパでは直ちに回収が行われたが、日本は対応が遅れ、その間に被害が増えてしまった。このようなことは二度と起こしてはならない。
アビガンが、最初に抗インフルエンザ薬として承認されたのは14年のこと。インフルエンザウイルスをたたく仕組みが、タミフルとは違う、新しいタイプの薬ということで注目を浴びたが、催奇形性がネックとなり、正式な承認ではなく「条件付き承認」になった。
アビガンの審査報告書にはこのような記述がある。
通常のインフルエンザウイルス感染症に対しても有効性は検証されていないこと、本剤は催奇形性等のリスクを有すること、海外で実施された臨床試験成績を中心に国内では検討されていない用法・用量が設定されていることを踏まえ、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施することと、本剤の投与が適切と判断される症例のみを対象に、あらかじめ患者又はその家族に有効性及び危険性が文書をもって説明され、文書による同意を得てから初めて投与されるよう、厳格かつ適正な措置を講じること。
アビガンは、このような危機管理を前提とした承認となっている。
新型コロナウイルスに対して、待望の薬とされているアビガン。治験で効果が出れば「新型コロナへの適応追加」が実現する。適応追加がなされれば、新型コロナで命の危険がある患者には使う価値はあるだろう。
しかし、子どもを持ちたいと考えている年代の人に安易に投与すべき薬ではない。予防投与などはもってのほかだろう。そもそも治験では、妊婦に投与することはまず行われない。しかも治験は厳しく医療的な管理下で行われる。
妊婦が使って大丈夫なのかどうか、他に重い合併症を持っている人が使って大丈夫なのか、小児が使って大丈夫なのか、高齢者が使って大丈夫なのか等々……。これらについては、治験の結果だけで、新たな副作用が出ないとは断言できない。
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