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期待のアビガンが簡単に処方できない理由専門家のイロメガネ(5/5 ページ)

新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。しかし、アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える薬だ。アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクががその理由の一つだ。

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アビガン治験で効果が出た後のこと

 Twitterなどで、新型コロナウイルスに感染し、すでにアビガンを飲み始めた人、治療として使用したという医師の投稿もある。年齢は分からないが、これから子どもを持つ可能性のある年代の方もいるであろう。

 先ほど引用した警告にあるとおり、アビガン投与後、7日間程度避妊するだけで本当に大丈夫なのかは、現時点では誰にも分からない。治験で試されたわけではなく、100%大丈夫であるとも、危険だともいえない状況である。

 まさに「毒をもって毒を制す」という、医薬品の本質が表れているのがアビガンである。実際、アビガン投与の結果、速やかな解熱と低酸素血症の改善を認めたという情報もある。しかし実際の治療で、アビガンだけを投与しているとは考えにくい。他の薬も併用しているのであれば、どの薬が効いているのかは断言できない。副作用のない医薬品はない。

 治験を経て、アビガンの承認申請が通り、新型コロナの特効薬ということになれば、治験時に比較して、多くの患者に治療で使われる事になるが、治験で報告されることのなかった新たな副作用が出て、不幸な予後にならないことを祈りたい。

 医薬品の投与で大切なことは、患者に十分な情報が与えられること。そして、副作用と効果、デメリットとメリットを考えたうえで、その薬を使うかどうかを自分で選択できることである、と薬剤師の立場から強調しておきたい。

執筆者 松本華哉 薬剤師

2002年、名古屋市立大学薬学部卒業、薬剤師免許取得。2004年、名古屋市立大学大学院薬学研究科 博士前期課程修了。有機化学合成、創薬研究に従事。

総合病院の門前薬局勤務を経て、大手医薬品開発受託機関であるイーピーエス株式会社に12年勤務。医薬品の市販後調査に携わる。その後メディカルライティングにも従事。主に、市販後医薬品に関わる厚生労働省への提出文書の執筆。現在は、製薬業界に特化したコンサルティングベンチャー企業に勤務しながら、ライフワークとして、コーチングの活動も行っている。 

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