ロイヤルリムジン「乗務員600人全員解雇」で広がる波紋 単なるブラック企業か、それとも経営者の「英断」か:雇用保険手当の「不正受給」となる可能性も(4/4 ページ)
新型コロナで各産業が打撃を受けている。そんな中で、話題となったタクシー会社の「乗務員全員解雇」。物議をかもすなかで、業績の見通しが立たない状況における経営者の「英断」とする声も挙がっている。本当に従業員の利益に資する決断なのか? ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。
緊急事態に合わせた特例が必要
その後の報道では、会社側の方針に「説明が十分ではない」と納得していない乗務員も一部おり、彼らは社外の個人加盟できる労働組合に参加し、会社側に団体交渉を申し入れたという。
法律通りに解釈すれば、会社側が解雇に際して乗務員と「再雇用を確約した契約」を結んでしまうと失業保険の受給資格は得られないし、一方で「再雇用は単なる口約束」となると、今後の状況次第では反故(ほご)になってしまうかもしれない。いずれにしても、乗務員側に不利な話となってしまうわけだ。
ちなみに過去、まさにこのような形で失業手当を「特例」で受給できる措置がとられたことがある。それは東日本大震災のときであった。「災害時における雇用保険の特例措置」として「事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない方については、実際に離職していなくとも失業給付(雇用保険の基本手当)を受給することができます」「災害救助法の指定地域にある事業所が、災害により事業を休止・廃止したために、一時的に離職を余儀なくされた方については、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、失業給付を受給できます」と定めたのだ。
ロイヤルリムジンの判断は、先が見えない状況の中、現時点でとれるギリギリの手段だったといえるし、乗務員にとっては、いきなり倒産するよりはよかったのかもしれない。ただ、ほぼ事業停止状態でありながらも借入を起こしたり、経営者が自己資金を投入したりして、辛うじて休業手当を払っている事業者も多数ある中で、整理解雇の要件を完全に無視するかのような事案がここまで支持されていることについては複雑な思いを抱いてしまうのもまた事実。今後はこのようなケースが増え、基準が見直されたり、特例措置が実施されたりしていくことになるだろう。
関連記事
- 新型コロナ「国民1人当たり10万円給付」以外でも知っておきたい、万が一のときに使える各種支援制度とは
新型コロナで大きな影響を受ける企業活動。全国に「緊急事態宣言」が発出された今、身を守るために知っておくべき各種支援制度とは? 新田龍氏が解説する。 - 新型コロナ“緊急事態”下でも従業員を守り抜くために 知っておくべき各種支援制度
新型コロナで大きな影響を受ける企業活動。全国に「緊急事態宣言」が発出された今、従業員を守るために知っておくべき各種支援制度とは? 新田龍氏が解説する。 - コロナ対策「マスク郵送」は本当に麻生財務大臣への利益供与なのか
「財務大臣」は、日本郵政の発行株数の63.29%を保有する大株主だ。「財務大臣」は、日本郵政だけでなく、日本電信電話(NTT)や日本たばこ産業(JT)の筆頭株主でもある。「財務大臣」がこれらの企業の筆頭株主になっている背景には何があるのだろうか。 - 新型コロナ対策で露呈 「社員から確実に見放される企業」とは?
各社で大きく分かれる新型コロナ対策。対処ができなければ「従業員に見放される」可能性も。危機にこそ組織の本質が問われる。 - 新型コロナ下、正社員と非正規の残酷な「テレワーク格差」明らかに
パーソル総研が全国のテレワーク状況を調査したところ、正社員と非正規で実施率に大きな差が出た。飲食・小売りに非正規が多い点などが背景にあるとみられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.