ロイヤルリムジン「乗務員600人全員解雇」で広がる波紋 単なるブラック企業か、それとも経営者の「英断」か:雇用保険手当の「不正受給」となる可能性も(3/4 ページ)
新型コロナで各産業が打撃を受けている。そんな中で、話題となったタクシー会社の「乗務員全員解雇」。物議をかもすなかで、業績の見通しが立たない状況における経営者の「英断」とする声も挙がっている。本当に従業員の利益に資する決断なのか? ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。
一方で「雇用保険の仕組みから逸脱する」との見解も
このような「企業の業績悪化などを理由として一時的に解雇し、業績回復時の人員採用の際に優先して再雇用を約束する」という手法は、米国の自動車産業等で「レイオフ」として実際に行われているやり方でもあり、合理的とする声もある。しかし法制が異なる日本において、何も問題がないというわけではない。
まず失業保険を受け取る乗務員にとっては、手当を受給するために継続的に求職活動をおこなっていなければならない。そして、ウイルス感染が落ち着き、この会社が再起するタイミングが給付期限内に間に合わなければ受給が途絶えてしまうことだ。
そして会社側にとっての問題が、「同一事業所への再雇用」を前提として失業保険を受給させた場合、それは「不正受給」となり、受給した金額の3倍を罰金として支払わなければならなくなる可能性があることだ。ただしこれについては解釈の幅があり、「全く同一の事業所ではなく、グループ内の別会社への雇用ならセーフ」「求職活動をおこなったが、最終的に本人の意志によって元の会社に戻ったらOK」など、一概に違法となるとは断言できないようだ。
この点は判断が難しいところだが、アクト法律事務所の安田隆彦弁護士は「タクシー会社経営者も、あらかじめ労基署や弁護士に相談の上で判断したはずだが、このような事態の前例はほとんどなく、確定的な判例があるわけでもないから、『円滑に失業手当をもらえる』とは言い切れないことについては重々留意すべき」との見解を示している。
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