ロイヤルリムジン「乗務員600人全員解雇」で広がる波紋 単なるブラック企業か、それとも経営者の「英断」か:雇用保険手当の「不正受給」となる可能性も(2/4 ページ)
新型コロナで各産業が打撃を受けている。そんな中で、話題となったタクシー会社の「乗務員全員解雇」。物議をかもすなかで、業績の見通しが立たない状況における経営者の「英断」とする声も挙がっている。本当に従業員の利益に資する決断なのか? ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。
失業手当の仕組みとは?
失業した場合は、次の勤務先が見つかるまでの期間、雇用保険から失業手当(正式名称は「基本手当」)を受給できる。ただしこの「失業」には「就職しようとする意思があり、求職活動もおこなっているが、職業に就けていない状態」という定義があるため、既に次の転職先が決まっている人や、家業や学業、自営業に進む人は手当を受給することはできない。かつ受給には一定の要件があり、
- 自己都合退職の人:退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12カ月以上あること
- 会社都合退職(解雇、リストラ、倒産など)や特定理由離職(雇い止め、病気、出産、配偶者の転勤など)の人:退職日以前の1年間に雇用保険に加入期間が通算6カ月以上あること
という条件に加え、ハローワークに求職の申し込みをしていることが前提となる。
受給額は「基本手当日額」(1日当たりの受給額)と、「所定給付日数」(給付される日数)によって決まる。基本手当日額は「賃金日額(退職前6カ月の賃金合計÷180)×給付率(50〜80%)」という計算式となっている。もう一方の所定給付日数は、勤務した期間と年齢、会社都合退職か自己都合退職かによって変わり、会社都合の場合は90〜330日、自己都合の場合は90〜150日となっている。
タクシー会社の判断のポイント
会社都合で従業員を休ませた場合、会社は従業員に対して「休業手当」を払う必要がある。しかしこのケースではタクシードライバーという職業柄、給与体系には歩合給的な要素があるため、人によっては手当の算出基準となる賃金総額自体が少なく、そこからの手当となると生活をまかなえないレベルになる可能性があるだろう。
しかも今回は「緊急事態宣言」が出ており、外出自粛要請がある中での休業は不可抗力ともいえる状況だ。となると、見方によれば休業が「会社都合」ではなくなるため、休業手当が出ないということも起こり得る。また、現時点でそれに対する何らかの補償が約束されているわけでもないため、事業としての存続、雇用の保証がはなはだ不透明になってしまうわけだ。
一方で、「解雇」となれば「会社都合退職」という分類になる。従業員が自分の意志で辞める「自己都合退職」との大きな違いは、「失業保険給付のタイミングが早い」ということと、「受給期間が長い」という点だ。自己都合退職の場合、保険受給できるのは最短でも3カ月+1週間後。会社都合退職ならば、それが1〜2カ月後まで短縮される。そして受給期間は最大330日。それだけの時間的猶予があれば、公的な保険で従業員には食いつないでもらうことができる、という判断をロイヤルリムジンの経営者はしたわけである。これが「従業員にとって有利」といえる根拠だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新型コロナ「国民1人当たり10万円給付」以外でも知っておきたい、万が一のときに使える各種支援制度とは
新型コロナで大きな影響を受ける企業活動。全国に「緊急事態宣言」が発出された今、身を守るために知っておくべき各種支援制度とは? 新田龍氏が解説する。
新型コロナ“緊急事態”下でも従業員を守り抜くために 知っておくべき各種支援制度
新型コロナで大きな影響を受ける企業活動。全国に「緊急事態宣言」が発出された今、従業員を守るために知っておくべき各種支援制度とは? 新田龍氏が解説する。
コロナ対策「マスク郵送」は本当に麻生財務大臣への利益供与なのか
「財務大臣」は、日本郵政の発行株数の63.29%を保有する大株主だ。「財務大臣」は、日本郵政だけでなく、日本電信電話(NTT)や日本たばこ産業(JT)の筆頭株主でもある。「財務大臣」がこれらの企業の筆頭株主になっている背景には何があるのだろうか。
新型コロナ対策で露呈 「社員から確実に見放される企業」とは?
各社で大きく分かれる新型コロナ対策。対処ができなければ「従業員に見放される」可能性も。危機にこそ組織の本質が問われる。
新型コロナ下、正社員と非正規の残酷な「テレワーク格差」明らかに
パーソル総研が全国のテレワーク状況を調査したところ、正社員と非正規で実施率に大きな差が出た。飲食・小売りに非正規が多い点などが背景にあるとみられる。
