日本からスポーツが消えた日――コロナ禍で露呈したスポーツビジネスの法的リスクと課題:今こそ求められる法整備(3/3 ページ)
新型コロナウィルスによって甚大な被害を受けているスポーツ界。国民がプロスポーツを安心して観戦できる場所は、いまの日本には存在しない。唯一無二のプロダクトである試合が開催できない今、スポーツ団体はこの事態にどのように対処していけばいいのだろうか。収入の大きな柱の1つである「広告料収入」にスポットを当て、試合が中止となった場合の広告主とスポーツ団体間の契約の行方を推察する。
「人情」を背景とするスポーツ界での法整備の必要性
地域に根ざし、公益を掲げて活動するスポーツ団体。スポーツ団体が手掛けるビジネスの大きな特徴は、「フランチャイズ」や「ホームタウン」という言葉に代表されるように、地域性と公共性を伴うことにある。
また熱心なファンやサポーターがついていて、広告主をはじめとするステークホルダーも「支援者」としての側面を有しており、顧客のロイヤルティー(忠誠心)が非常に高いことも大きな特徴だ。このため、スポンサー契約は、CSR(企業の社会的責任)の一環として活用されるケースも多く、特殊な契約の1つと言えそうだ。
だからこそ、今回のようなケースに備えるためにも、稲垣氏はスポーツ界における法整備の必要性を訴える。
「先ほど述べた通り、4月1日に『民法の一部を改正する法律』が施行され、契約解除の規定が大きく変わりました。4月以降に締結又は更新されたスポンサー契約には、新しい民法が適用されることになります。
これまでは、相手方に落ち度があった場合に限り、当事者は契約を解除できたのですが、民法改正後は、相手方に落ち度がなくても契約の解除が認められることになりました。例えば、債務の一部の履行ができず、契約の目的を達成できなかった場合は、スポンサー側はスポーツ団体側に落ち度がなくても契約を解除できます。
そのため、今後のスポンサー契約の締結や更新時には、この民法改正を踏まえた契約上の任意解除条項の見直しや、契約目的の明確化などが重要になってくるはずです。今回の新型コロナの拡大と民法改正で、リスクマネジメントの観点をより意識したスポンサー契約の見直しを検討する必要があると思われます」。
これまでの日本のスポーツ界には、さまざまな困難があった。東日本大震災では「復興支援チャリティマッチ」で挙げたサッカーの三浦知良選手のゴールが大きな力を与えた。熊本地震では、地元出身の巻誠一郎選手が、涙ながらに支援を訴えた姿に心を動かされたファンもいたはずだ。
このようなスポーツの持つ大きな力を社会に生かしていくためにも、スポーツ団体には、まず身を守り、事業を継続するための基盤を安定させることが必要だ。今回の新型コロナの感染拡大により、事業リスクが顕在化したスポーツ団体。この先、日本にスポーツ文化を根付かせ、持続的に発展させていくためには、いまこそ団体を超えたノウハウの共有と法整備が必要だ。
稲垣弘則 2010 年弁護士登録。2017 年南カリフォルニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018-2019 年パシフィックリーグマーケティング株式会社出向。2019 年より同社にパートタイム出向中。同社でのスポーツビジネスにおける実務経験を活 かしつつ、スポーツビジネスに関与する日本企業やスタートアップを含めたあらゆるステークホルダーに対してアドバ イスを提供している。
著者プロフィール
瀬川泰祐(せがわ たいすけ)
1973年生まれ。北海道出身。エンタメ業界やWeb業界での経験を生かし2016年より、サッカー・フットサルやフェンシングなど、スポーツ競技団体の協会・リーグビジネスを中心に、取材・ライティング活動を始め、現在は、東洋経済オンラインやOCEANS、キングギアなど複数の媒体で執筆中。モットーは、「スポーツでつながる縁を大切に」。Webサイトはこちらから。
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