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なぜ起こる? 欧州、電力マイナス価格の謎に迫る欧州の電力市場の仕組み(1/6 ページ)

新型コロナによる経済停滞の影響により、原油先物価格が史上初のマイナス価格となったニュースが反響を呼んでいる。しかし、欧州では既に2008年から、電力の先物取引においてマイナス価格の制度が導入されている。実際、電力の先物取引での値段がマイナスとなることは、ごく当たり前のことだといわれている。

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 新型コロナによる経済停滞の影響により、原油先物価格が史上初のマイナス価格となったニュースが反響を呼んでいる(原油が驚異のマイナス価格)。しかし、欧州では既に2008年から、電力の先物取引においてマイナス価格の制度が導入されている。実際、電力の先物取引での値段がマイナスになることは、ごく当たり前のことだといわれている。

 ではなぜ、欧州において電力のマイナス価格という制度があるのか、どういう時に電力がマイナス価格となるのか、ドイツの再生可能エネルギー機関、AEE(Agentur fur Erneuerbare Energien)の研究員、梶村良太郎氏に、Zoomインタビューを行った。また、日本の電力市場の現状については、日本の大手シンクタンクに所属し、世界の電力事情に詳しい左門さん(仮名)からも話を聞いた。


(ドイツの風力発電所 AEE Webサイトから)

日本と欧州の電力市場の違い:自由競争と再生可能エネルギー

――欧州の電力取引市場において、マイナス価格制度が存在する背景と理由について教えてください。

梶村良太郎氏(以下同) 「前提の一つとしてまず、欧州の電力市場は完全に自由化が完了していることが挙げられます。1990年代以降、ドイツを含めた欧州では、EU内での市場の自由化/活性化が大前提にあり、誰もが市場に参加でき、誰もが自由な競争に参加できます。それが欧州全体で行われています。

 そのため欧州の電力市場は大手独占ではなく、EU加盟国の市民ならば、発電でも小売でも誰もが参加できます。唯一自然独占である送電網・配電網が規制の対象になっていて、しかもアンバンドリングという、発送電分離(電力会社の発電事業と送電事業を分離すること)が行われています。つまり発電、送電、小売が分社化されています」

――なるほど、農家で風車小屋を持っているドイツのおばあさん、おじいさんが、風車で得られる電力を武器として、市場に参画できるらしいですね。欧州の電力市場には、およそ数千、数万のプレーヤーが存在すると聞いたことがありますが。

梶村氏 「基本的には誰でも市場で発電して、誰でも市場で立ち回れるので、正直、数え切れないですね。無数のプレーヤーがいます。この自由化の長い歴史と、そのため発生する市場に参加している事業者数は、おそらくドイツと日本では大きく違うと思います。そして何より、電力供給のできるだけ多くを、この多くのプレーヤーの自由競争に委ねようという考え方があります。

 さて、電力にマイナス価格制度が存在するのは、もう一つ重要な理由があります。EU諸国は、国によって多少の違いはあるのですが、電力供給を化石燃料、原子力などから再生可能エネルギー中心に切り替える方向に動いており、市場制度もそれに伴い改革されている途上にあることが挙げられます」

 ここで日本での自由化の現状について左門さんに聞くと、「日本でも完全自由化は始まっている。ただ、電力会社(旧一般電気事業者)のシェアが高く、かつ電力会社間の連系線の容量に限りがあるので、全国単一市場になりにくい」とのことだ。

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