コロナ危機が日本企業の非合理な“ムラ社会”を確実に破壊する訳:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
非合理な面もあった日本企業の“ムラ社会”。筆者はコロナ危機で崩壊する可能性を指摘する。終身雇用の終焉や「ムダな社員・職場」の顕在化が進む。
テレワークでばれた「ムダな職場・社員」
コロナ危機は、労働者の基本的な価値観も変えつつある。テレワークの普及によって、これまで見えていなかった職場のムダが可視化されてしまったからである。
先ほど、日本のカイシャは労働者にとってムラ社会だったと述べたが、社会学的には「共同体社会」と言い換えることができる。共同体は構成員にとって所与の存在であり、自分で主体的に参加するどうかを選べるものではない。集団の中では、お互いを監視したり、貶(おとし)めるという行為が行われるが、一方で共同体は、自分のアイデンティティーを確認したり、満足感を得る場でもあった。
共同体としての職場では、他人への誹謗中傷やイジメもある意味では業務の一部となり、純粋なタスクとこうした暴力行為、そして幸福感が渾然(こんぜん)一体となっていた。だがテレワークに移行すると、ほぼ全てがタスク単位となり、労働者の評価基準は、指定された時間に指定されたアウトプットを出せたのかどうかに集約されてくる。
当然のことながら、会社の業務に貢献している人とそうでない人がハッキリと区別され、上司の立場の人間も、適切にマネジメントできていたのか完全に可視化される。コロナ後の社会では、自分のアウトプットを正しく評価してくれない企業で労働者が働き続ける意味はないし、会社から見れば、共同体的な振る舞いしかできない社員はもはや不要である。
近代的な企業制度は、労働者と企業の役割分担を明確にし、労働に対する正当な対価を規定することで成り立っている。コロナウイルスという感染症は、前近代的な日本の社会制度にも影響を及ぼそうとしている。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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