象が踏んでも壊れないトヨタの決算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。
営業利益増減要因
左の柱が前期実績で、それに各要因がどのように影響して、当期を示す、右の柱の高さを実現しているかを見ていこう。
一番大きいのは為替の変動で、これがマイナス3050億円。これは国内生産300万台を死守しようとするトヨタの場合、国内生産からの輸出が多い以上、止むを得ない。その影響の半分以上を打ち消しているのが原価改善努力で、プラス1700億円。クルマの出来は年々良くなっているにも関わらず、原価をこれだけ大きく低減しているのはまずスゴいとしか言いようがない。
次に販売面での影響だが、ここはマイナス900億円。内訳を見ていくと「台数・構成」でマイナス2600億円。これが販売ダウンの影響だ。次の「金融事業」のマイナス250億円の主要因は、貸し倒れ引当金の積み立てだ。景気の悪化による失業率の増加で、ローンの未収金が増えることを踏まえて、回収できない分について準備金を用意してある。
ところが「その他」で、かなりの部分を押し戻して、トータルをマイナス900億円まで戻している。これらは落ち穂拾いのような地道な細々した努力の積み重ねであり、このあたりの小さなコツコツ具合が、毎度トヨタの決算を見て感じる最大の凄(すご)みである。
諸経費の項目も同じで、実質的なその他にあたる「経費ほか」で猛烈に押し返してマイナスをプラスにしているのが分かる。
最後の「その他」は減価償却の方法変更だ。減価償却とは、設備や備品などが古くなって価値が減じていく分を簿価(資産)から減らしていくことをいう。その算出方法を今回変えたということだ。これに関してはあくまでも一時的なもの。勝手な都合で毎年やり方を変えたりすれば税務署が黙っていない。ちなみにこの変更についてはすでに第1四半期決算時に予告されており、当初から折り込まれていたものだ。
この増減要因の中で、トヨタの稼ぐ力はどの程度あったのだろうか。トヨタ自身は、「為替・スワップ等の影響がなければプラス1250億円。コロナの影響がなければプラス2850億円になったはず」と説明している。不運さえなかったら、というたらればの話ではあるが、平たくいえば、きっちりやるべきことをやっておいたから、ほぼ横ばいを達成できたという話である。トヨタではここ数年、「為替・スワップ等の影響」を除外した利益を、必ずプラスにする決意で事業を進めている。ちなみに、2850億円は近年でもベストリザルトである。
ということで、この増減には指摘すべき問題点が無いどころか、舌を巻く強靭(きょうじん)さが窺(うかが)える。
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