好況でないのに30代貯蓄急増、それでも老後が安泰でない深刻な訳――肝心の「経済成長」どう果たす?:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
好景気とは言えない中で特に30代の貯蓄が急増。老後生活の成立には貯蓄だけでは不足と筆者は指摘。消費者不安の中で必要な経済成長を果たす秘訣とは?
「貯蓄」と「経済成長」は両立できるのか
では、将来不安が台頭する中で、日本経済を成長させるにはどうすればよいだろうか。少し専門的な話をすると、マクロ経済的に貯蓄が増えているということは、消費者が直接、商品やサービスを購入するという形ではなく、銀行からの融資という形で世の中にお金が出回る比率が高くなることを意味している。
私たちの貯蓄は銀行を通じて企業に融資され、それが設備投資の資金に充当される。貯蓄が増え、消費が減っている状態で経済を回していくには、設備投資が有益な製品やサービスの開発につながり、これが消費を喚起するという流れを構築する必要がある。
消費者の心理は単純ではない。たとえ将来不安を持っていたとしても、どうしても必要な物や欲しい物は購入するものである。米アップルのiPhoneは製品によっては1台10万円するにも関わらず飛ぶように売れているのは、こうした理由からだ。企業が消費者の意欲を高める付加価値の高い製品やサービスを開発すれば、消費者はお金を使うので、企業の利益が増加し、最終的には労働者の賃金上昇につながっていく。
賃金が増えると将来不安が和らぐので消費意欲が高まり、これがさらに企業収益を押し上げる。こうした好循環が実現すれば、日本経済も自律的な成長フェーズに入って株価が上昇するので、老後の不安も小さくなるだろう。結局のところ、全てのカギを握っているのは企業の生産性ということになる。
昭和の時代であれば、工場を増設して大量に製品を生産し、外国に売ってもうけるという手段があったが、今の時代には通用しない。一刻も早く従来型組織からの転換を進め、企業の生産性を高める工夫が必要だろう。このままでは、せっかくの貯蓄もムダに終わってしまう可能性がある。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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