IT業界の「多重下請け問題」を変える真の方法とは? 1次請けから3次請けまで経験した社長が提唱する「0次請け」:「IT後進国ニッポン」の病巣に迫る【後編】(3/4 ページ)
IT業界で常態化している多重下請けが、日本のソフトウェア開発を米国や中国よりも遅れさせ、かつ、優秀なエンジニアが育たない状況を作り出している――。こんな危機感を持って、業界の構造改革に向けて取り組んでいるのが、東京都渋谷区に本社がある情報戦略テクノロジー。高井社長はIT業界で1次請けから3次請けまで経験している。その経験から、業界の構造改革のためには、企業の事業部門と直接ビジネスをする「0次請け」と、エンジニアのスキルシートの統一化が必要だと訴えている。
エンジニアのスキルシートを統一化
――0次請け以外にも、業界の改革を進めているそうですが、どのような取り組みなのでしょうか。
高井氏:プロジェクトとエンジニアをマッチングするサービスを、子会社のWhite Boxで立ち上げました。業界を変えるためのプラットフォーム作りです。
具体的には、エンジニアのスキルシートを統一化して、エンジニアがどのような能力を持っているのかを分かるようにして、クラウドで一元管理します。当社に所属するエンジニアだけでなく、3次請け以降の会社のエンジニアも登録できます。現在パートナー企業は300社まで増えていて、約1万人のエンジニアのスキルデータが集まっています。
――以前はどのようにしてエンジニアの情報を管理していたのですか。
高井氏:業界ではエンジニアのスキル情報はほぼ管理されていないような状態でした。どのようにエンジニアを探していたのかというと、仕事を発注する側からJAVA使用経験年数などの必要スキルが書かれた指示書がメール添付で送られてきてから、下請け企業が自社や協力会社のエンジニアのスキルシートをかき集め、必要スキルが書かれているエンジニアを探すというアナログなやり方です。
さらに問題なのは、必要な情報がきちんと書かれたスキルシートがほぼないことです。なぜそうなってしまうのかというと、エンジニア一人ひとりがオリジナルフォーマットで何となくスキルシートを作っていることが多いから。この業界では、エンジニアがすぐにやめてしまうことも多く、スキルシートを自社のフォーマットで社内管理していること自体が稀で、エンジニアの手元にある状態がデフォルトなのです。
発注側が求めるスキルをエンジニアが持っているのかどうか、すぐに読み取れるフォーマットに、スキルシートを統一化することも重要な業界改革です。
――スキルシートを統一化することで、具体的にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。
高井氏:エンジニアの情報が集まると、未来の案件にマッチングすることができます。エンジニアは、いまよりも確実にスキルアップできる案件に契約することが可能になります。
優秀なエンジニアはクライアントが離したがらず、開発が終わった後も保守運用案件に携わるケースが多いです。ですが、それではスキルアップができません。エンジニアが所属する会社は、次の案件が決まっているわけではないので、エンジニアを引き上げるとも言えません。そんな交渉をしたら関係性が悪くなってしまいます。そうなると結局、優秀なエンジニアは転職してしまうのです。
スキルシートを統一化して、未来の案件とマッチングができていれば、エンジニアのスキルアップが可能になります。会社も次の契約が決まっているので、いまのクライアントに対して引き上げ交渉ができます。スキルシートの登録者を増やして、0次請けの仕組みができていけば、業界の構造改革につながっていくと考えています。
一般的なスキルシート。エンジニアを抱える3次請け以下の企業の多くがこのような「履歴書どまりのスキルシート」を作っている。このようなスキルシートだとスキル情報量が少なく、クライアント企業の窓口ではじかれてしまう可能性が高くなる
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