IT業界の「多重下請け問題」を変える真の方法とは? 1次請けから3次請けまで経験した社長が提唱する「0次請け」:「IT後進国ニッポン」の病巣に迫る【後編】(4/4 ページ)
IT業界で常態化している多重下請けが、日本のソフトウェア開発を米国や中国よりも遅れさせ、かつ、優秀なエンジニアが育たない状況を作り出している――。こんな危機感を持って、業界の構造改革に向けて取り組んでいるのが、東京都渋谷区に本社がある情報戦略テクノロジー。高井社長はIT業界で1次請けから3次請けまで経験している。その経験から、業界の構造改革のためには、企業の事業部門と直接ビジネスをする「0次請け」と、エンジニアのスキルシートの統一化が必要だと訴えている。
ITが国力を左右する
――スキルシートの統一化と0次請けによって、エンジニアの待遇もよくなっていくということでしょうか。
高井氏:データベースが整ってきたことで改めて分かったことは、0次請けはある一定のレベルのエンジニアしか機能できないため、登録されているエンジニア全てが0次請けとして機能するとは限らないということです。一方で、0次請けとして機能するエンジニアと、そうでないエンジニアを組ませることによって、チーム単位で機能させられることも分かってきました。
つまり、現状で0次請けとして機能する一部のエンジニア以外に対しても、当社が提唱する0次請けを広げることもできるのではないかということです。実際に、当社で0次請けとして働いている人の中には年収1000万円を超える事例も出てきています。そのくらい待遇が良くなれば、東大や東工大を卒業した人がエンジニアになる時代も来ると考えています。理系の優秀な学生がエンジニアにならない国は、日本だけではないでしょうか。
――海外の優秀なエンジニアの待遇はどうなっているのでしょうか。
高井氏:海外の場合は、その国の1人あたりのGDPで2〜3倍くらいの給料をもらっていますね。シリコンバレーで働くエンジニアもそうですし、当社はベトナムのハノイに子会社がありますが、ベトナムの平均的な月給の3倍近くを払っています。
ITが関わらない世の中のサービスやビジネスはもうないですから、ITはまさに「国力」と言えると思います。ところが日本は、国力の基幹を支えるシステム開発の業界がこの体たらくですから、いま変えていかないとどうしようもないですよね。
――それだけ危機感を感じているということですね。
高井氏:海外の状況を見ると、危機感しかありません。日本はこれからさらに人口が減っていきます。社会保障費が増えていくことも確実に見えていますよね。英語ができる人も少ないので、いまのままでは海外の仕事を受注することは難しいのが実態です。
一方で、私たちが進めているデータベースができれば、国内では地方に仕事を持っていくこともできますし、国を超えて仕事を受注することも現実に近づきます。国際的に仕事が流通できる仕組みを早く作って、日本の国力を上げていきたいと考えています。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
お知らせ
新刊『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)が発売されました!
パラリンピックがいつどこで始まったか、知る人は少ない。
そして、パラリンピックの発展に、日本という国が深く関わっていることも、ほとんどの日本人は知らない。
パラリンピック60年の歴史を紐解きながら、障害者、医師、官僚、教師、そして皇室の人びとといった、パラリンピックの灯を今日までつなげてきた人日本人たちのドラマを、関係者の貴重な証言から描く。
日本の障害者スポーツ史の決定版。
関連記事
- IT業界の「多重下請け地獄」が横行し続ける真の理由
IT業界の多重下請け構造にはさまざまな問題があるとして、構造改革に取り組んでいるのが情報戦略テクノロジーだ。ソフトウェアの開発において、1次請けから3次請けまでのビジネスを経験してキャリアを築いてきた高井淳社長に日本のIT業界の課題と、同社が取り組む改革について前後編の2回にわたって聞いた。前編ではソフトウェア業界やシステム開発の問題点について聞いた。 - 7pay問題に潜む病巣――日本のIT業界で是正されない「多重下請け構造」
7pay問題は必ずまた起きる――。日本のIT業界の根本的課題である「多重下請け構造」という病巣に迫った。 - ひろゆきが斬る「ここがマズいよ働き方改革!」――「年収2000万円以下の会社員」が目指すべきこと
平成のネット史の最重要人物「ひろゆき」への独占インタビュー。ひろゆきの仕事観・仕事哲学を3回に分けて余すことなくお届けする。中編のテーマは「働き方」――。 - ひろゆきが“日本の未来”を憂う理由――「他人は変えられない」
「平成ネット史」の最重要人物、ひろゆきへの独占インタビュー最終回――。ひろゆきはなぜ「日本の未来」を憂うのか? - ひろゆきの提言(1)――「1人産めば1000万円支給」で少子化は解決する
ひろゆきこと西村博之氏が、令和時代を迎える日本が今後どんなふうにヤバくなるのか、沈みゆく日本で生き抜くためにはどうしたらいいのかを3回にわたって提言する。第1回目は少子化問題について――。 - ひろゆき流「職場の同調圧力」に負けない方法――他人から嫌われない人なんて存在しない
鋼のメンタル王・ひろゆきが教える、いつでもどこでもマイペースを貫く、逆転の思考法! 職場で「他人を攻撃する迷惑な人」と賢く距離を取り、スルーする方法について3回にわたってお届けする。第3回目は職場の「同調圧力」を乗り越える方法について。 - ひろゆき流「転職の裏ワザ」――履歴書の書き方、自己アピールの方法
鋼のメンタル王・ひろゆきが教える、いつでもどこでもマイペースを貫く、逆転の思考法! 職場で「他人を攻撃する迷惑な人」と賢く距離を取り、スルーする方法について3回にわたってお届けする。第2回目は履歴書の書き方、自己アピールの方法について。 - ホリエモンが政治家に頭を下げてまで「子宮頸がんワクチン」を推進する理由
ホリエモンはなぜ「子宮頸がんワクチン」を推進しているのだろうか。その裏には、政治に翻弄された「守れるはずの命」があった。 - ホリエモンが北海道で仕掛ける「宇宙ビジネス」の展望――くだらない用途に使われるようになれば“市場”は爆発する
ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズが5月2日に予定していた小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げを延期した。延期は関係者にとっては苦渋の決断だったものの、北海道は引き続き宇宙ビジネスを進めていく上で優位性を持っており、期待は大きい。そのことを示したのが、2019年10月に札幌市で開かれた「北海道宇宙ビジネスサミット」だ。登壇したのは、同社の稲川貴大社長と堀江貴文取締役、北海道大学発ベンチャーのポーラスター・スペースの三村昌裕社長、さくらインターネットの田中邦裕社長、北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授。 - ホリエモンとの出会いが人生を変えた――インターステラ稲川社長が語る「宇宙ビジネスの未来」
7月13日に小型ロケット「MOMO」4号機を打ち上げるインターステラテクノロジズの稲川貴大社長が語る「宇宙ビジネスの未来」とは? - ホリエモン出資のロケットを開発、インターステラ稲川社長が目指す夢「早期に小型衛星ビジネスに参入」
民間企業が開発したロケットとして国内で初めて高度113キロの宇宙空間まで到達したインターステラテクノロジズの稲川貴大社長が単独インタビューに応じた。 - ホリエモンが北海道“ロケットの町”で次の一手 「堀江流レストラン」開業に奮闘
日本の民間ロケットとしては初めて高度100キロの宇宙空間に到達したホリエモンロケット「MOMO3号機」。ホリエモンこと堀江貴⽂氏が、ロケット打ち上げでも縁のある人口5700人の「北海道⼤樹町」で、ロケット事業に続く“次の一手”を繰り出そうとしている。 - 新型コロナで苦渋の決断――ホリエモン出資の宇宙ベンチャー・インターステラ稲川社長が“打ち上げ延期決定前”に明かしていた「人材育成と成長戦略」
北海道大樹町の要請によって延期になった国産小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げ――。ホリエモン出資の宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズは同機の打ち上げを、宇宙事業が「実験」から「ビジネス」に進化する転換点と位置付けていた。ITmedia ビジネスオンラインは4月20日の時点で稲川社長に単独インタビューを実施。同社が進める人材育成、今後の成長戦略についてのビジョンを聞いていた。延期とされた5号機の打ち上げが、同社や日本の宇宙産業にとっていかなる意味を持っていたのかを問い掛ける意図から、その一問一答を掲載する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.