多くの人に「感謝」されているのに、なぜ医者の給与は下がるのか:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、日本の医療界が大変なことになっている。患者があふれて「医療崩壊に陥った」といった話ではなくて、患者が増えたにもかかわらず、医療従事者の給与がカットされるかもしれないというのだ。どういうことかというと……。
医療崩壊の危機
では、なぜこうなってしまうのだろうか。さまざまなご意見があるだろうが、根幹的なところをたどっていくと、最終的には日本の財政の悪さへと突き当たる。
医療従事者への報酬をはじめとした、日本の医療サービスにかかる費用の大半は、国家が国民医療費として払っており、これは高齢化で増加傾向。いまや約46兆円と国家予算102兆円の半分まで膨張している。そのため財務省としてはどうにかして医療費を圧縮したい。だから、医療従事者の賃金もビタッと低いまま固定される。
「低賃金重労働」なので人がバタバタ辞めていく。残された人たちはどんどん過重労働になる。そこへトドメを刺したのが新型コロナだった。つまり、「医療崩壊の危機」は日本の財政の悪さが引き起こしていたのだ。実際、スペイン、ギリシャ、イタリアが相次いで医療崩壊を起こしたのは、医療従事者のレベルうんぬんの話ではなく、日本同様に財政が悪くて緊縮政策を取ってブラック労働になっていたことが大きい。
この構造的な問題を解決するには、究極的には2つ方法しかない。1つは、北欧の高福祉国家や欧州のように、消費税をドカンと引き上げてそれを医療や介護へまわしていく。国民の社会保障負担を増やすのである。
今の日本は「これ以上、高い税金など払えるか! でも、医療は高い質のものを安く受けさせろよ」というムシのいいことを大合唱している状況だ。そんな無理難題のしわ寄せがすべて医療従事者にまわされている状態だ。
と言っても、「増税」は政治的にも、国民的にもなかなかすんなりと受け入れられるものではない。そうなると残された道は「日本型医療システムの抜本的な改革」しかない。つまり、国民皆保険という「聖域」にメスを入れるのだ。
国民皆保険をやめろという話ではなく「国民が同じお金で、同じ医療を受ける」という横並びをやめるのだ。貧しい人は保険でこれまで通りに医療が受けられる。一方で、経済的に余裕のある人は、保険診療に費用をオンすることで、さらに高度な医療サービスを受けられるようにする。現在、高度医療などに限定されている「混合診療」の対象をさらに広げていくことで、医療機関が自力でしっかりと稼げるようへしていくのだ。
「バカも休み休みに言え! そんなもうけ主義がまん延したらそれこそ日本の医療はおしまいだ!」と怒りで気がどうにかなってしまう方もいらっしゃると思うが、ちょっと冷静に考えていただきたい。
休業補償や給付もロクに払えない今の日本が、国民皆保険という高福祉国家のようなこのシステムを適切に運用できるとは到底思えない。できないことに執着していても、現場は疲弊するだけだ。そんなときに再び今回の新型コロナのような「危機」が起きた今度こそ「医療崩壊」は免れないのだ。
というよりも、実は今回も危なかった。
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