多くの人に「感謝」されているのに、なぜ医者の給与は下がるのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、日本の医療界が大変なことになっている。患者があふれて「医療崩壊に陥った」といった話ではなくて、患者が増えたにもかかわらず、医療従事者の給与がカットされるかもしれないというのだ。どういうことかというと……。
ブラック労働が前提
この賃金格差は、看護師だけの問題ではない。テレビドラマなどの影響で、医師と言えば、高級外車を乗り回すボンボンというイメージが社会に定着しているが、それは一部の開業医に限った話で、大学病院などに勤務する医師は時給換算すれば、そのへんのサラリーマンよりも低い人も少なくない。それどころか、ハードに働いているにもかかわらず、自身の研究や技術研鑽(けんさん)のためという名目から賃金が支払われない医師も多く存在している。
いわゆる「無給医」だ。
NHKが無給医の実態を報道したことを受けて、文部科学省は全国医学部、歯学部の108の大学附属病院を対象に調査をしたところ、少なくとも9%に当たる2819人が「無給医」に当たることが明らかになっている。
低賃金重労働が美徳とされるこの国では、「ブラック」と呼ばれる業界は数多くある。サービス残業も多いし、休日出勤もいまだに当たり前だ。しかし、業界のおよそ1割にあたる人々が「無給」でコキ使われているブラックぶりはあまり聞いたことがないのではないか。「夢」や「自己実現」などのキラキラワードで若者の「やりがい搾取」をするブラック企業であっても、ここまで無茶な搾取はなかなかしない。
ただ、医療業界の人からすれば、この「無給医」はそれほどモラルの欠いた反社会的なことではない。むしろ、あって当たり前。筆者も仕事でお会いした医師たちから、若い頃は大学の医局でタダ働きだったので、バイト医でどうにか食いつないでいたという思い出話をよく聞く。それは裏を返せば、「世界一のレベル」と誇らしげに語られる日本の医療というものが、医療従事者のブラック労働を前提として成り立っていることでもあるのだ。
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