中国「感染リスク判定アプリ」、“病歴・飲酒・喫煙データ収集構想”に波紋:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(3/3 ページ)
日本では開発の遅れが取り沙汰される新型コロナウイルスの「接触確認アプリ」だが、中国では2月初旬から運用が開始されている。ここでは中国アプリのこれまでと現状、第2波に備えた拡充構想とそれに対する市民の反応をレポートする。
健康コードのニューノーマル構想も
もちろん、健康コードによって感染リスクをゼロにできるわけではない。体温や体調、移動履歴を把握しても、無症状感染者はすり抜けてしまうからだ。4月8日に武漢封鎖が解除された後、政府は健康コードが「緑」の人だけ市外への移動を許可したが、移動先で検査結果が陽性になった人が現れ、大きな波紋を呼んだ。
とはいえ中国は当面、「PCR検査+健康コード」を新たな生活様式の必須ツールとしていく方針だ。5月時点でも多くの都市で、オフィスビル入場や地下鉄乗車時の健康コード提示が続いている。
さらには、突貫工事的に開発された健康コードを「健康管理のニューノーマル」にアップグレードする動きも出ている。
5月下旬、杭州市衛生健康委員会のトップが「過去の病歴、検査、生活スタイルなどのデータを集め、健康度を3色でなくスコアやグラデーションで表示する」構想に言及した。健康指数ランキングなどの機能も導入し、「庶民の健康のファイアウォール」としての役割を期待しているという。
同構想に対し、市民からは「健康に寄与する」ことへの期待と「飲酒や喫煙も含めた個人情報の履歴」が残ってしまうことへの不安の両方の反応が出た。
中国は、日本に比べると個人情報の保護に対する意識が薄いとはいえ、新型コロナの感染拡大時には、武漢戸籍を持つ人や感染者への差別も深刻化した。病歴などのデータは就職などにも影響しかねず、「政府がコロナ対策に乗じて、監視を常態化させようとしている」との批判も上がった。
ウイルスを封じ込めるためには、感染源の追跡と正確なリスク測定が不可欠だ。PCR検査拡充、布マスク配布、給付金とあらゆる対策で遅れが生じた日本だが、それを教訓に第2波では迷走は許されない。追跡の仕組み構築とその副作用として生じるプライバシー問題について、迅速な対応が求められる。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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