なぜ、マーケティングでAIが注目されているのか:アフターコロナは「試すチャンス」?(2/3 ページ)
コロナの影響による経済の停滞を受け、IT大手のGoogleですらマーケティング予算を大幅に削ろうとしている。この流れはマーケティングのさらなる効率化を促す要因となるかもしれない。そこで今あらためて注目を浴びているのが、AI(人工知能)だ。
これは同社が開発した音声認識・音声合成による応答システムの名称なのだが、端的に言えば、Duplexは「人間と電話すること」ができる。
この動画はそのデモンストレーションだ(音声アシスタントアプリ「Google Assistant」に実装した例)。ユーザーである女性がアプリに対し、レストランを予約してと自然な口語で話しかけると、アプリがそれを理解し、指定されたお店に自動的に電話して、応対した店員とやりとりして予約を取る。アプリは店員からの回答(7時はダメだけど8時ならどう?)を正しく理解し、反応し「えーと」のような相づちを打つなど、まるで人間のように会話を成立させている。
こうした人間のように人間とコミュニケーションする技術は、AIのおかげで急速に進化している。Duplexのように音声や電話を使うものだけでなく、Webサイトやアプリ上でテキストを通じてやりとりするもの(いわゆる「チャットbot」)や、それに人間そっくりのCG(実在する人間に似せるだけでなく、全く実在しない人間の表情を自動生成するAI技術もある)を被せるものなど形式もさまざまで、いずれ「人間のオペレーターだと思ってやりとりしていたら、実はAIだった」と驚かされる機会も増えるだろう。
実際にDuplexでは、あまりに自然な電話のように感じられることに懸念の声が上げられたため、会話を始める際に「Google Assistantが電話しています」のように機械であることを明示する措置が取られている。
AIが顧客に応じたサービスの売り込みまで
こうしたAIによる高度なデータ分析と、ハイパーパーソナライゼーション、そして人間とコミュニケーションしているかのような自然なやりとりが組み合わされた場合、どのようなことが可能になるのか、一つ事例を紹介しよう。
米テキサス州に拠点を置く、USAAという金融機関がある。同社は1922年に設立された古い企業で、顧客としているのは米国の軍事関係者やその家族であり、1200万人以上の利用者に銀行や保険といった金融サービスを提供している。USAAは実店舗を持たないというユニークな形態を取っており、最新テクノロジーへの投資も積極的で、ビジネスやIT系のメディアで取り上げられることも多い。
彼らが2017年に導入した新たな技術が、AIを活用した音声によるチャットbotだ(現時点ではモバイルアプリとWebサイト上で提供している)。エンジンを提供したのは、米国のスタートアップ企業Clincで、機械学習を活用して高度なコミュニケーションを実現している。顧客は普通の人間の担当者に話しかける感覚で、さまざまな質問をすることができ、botはその内容を把握して、適切な回答を音声とテキストで返すことが可能だ。19年8月には、日本でもみずほ銀行とNTTデータに協力して、音声インタフェースの実証実験を行っている。
次の映像は、Clincが同社のチャットbotエンジン「Finie」と、他のアプリケーションを比較したものだ(彼らは技術面でIntelと提携しており、同社のWebサイトで日本語による紹介映像も公開されているので参照してほしい)。いかに自然なやりとりが実現されているか、この映像からも理解できるだろう。
さらにUSAAは、チャットbotと顧客データベースを直接、リアルタイムに結び付けることで、顧客への返答を、彼らが置かれた状況や抱えている課題に基づいてきめ細かに調整するという対応を実現している。
USAAの顧客は軍関係者であるため、任務による派遣や、ローテーションなど頻繁な移動が発生する。そこでUSAAは、そうした移動や定着をスムーズに進める支援や、居住地や任務の内容に基づいた金融サービスを提供している。これらは従来も行われていたが、同社の従業員数は約3万人であり、その数で1200万人の顧客に対して、的確なサービス内容を細かく考えることは難しい。しかし顧客対応の大部分をチャットbotに任せることで、USAAは個々の顧客に対し、最適な提案を瞬時に行うことが可能になったというわけだ。
求められる準備
とはいえこのような成功例を、一朝一夕に実現できるわけではない。
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