デジタル通貨とはいったい何なのか 国内普及の突破口:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(2/3 ページ)
ブロックチェーン技術を使った新しいカテゴリーの「お金」であるデジタル通貨への期待が世界中で高まっている。電子マネーやキャッシュレス決済アプリと「デジタル通貨」の本質的な違いは何か。そしてデジタル通貨を日本で登場させる上での突破口とは?
デジタル通貨の大きなメリットは即時決済
ブロックチェーンを使ったデジタル通貨にはどのようなメリットがあるのか。大きくは次の3点である。
(1)即時決済で事務処理とリスクを低減
従来の決済システムでは、取引から決済完了までに複数の段階を経る形となる。事務処理の負担も大きく、ビジネス上のリスク要因ともなっていた。一方、ブロックチェーンを活用したデジタル通貨では一回の手続きで取引、決済が完了する。いわば技術の力で「現金商売」のメリットを復活させる取り組みといえる。
クリプトガレージは、暗号資産取引所や投資家などプロを対象とした決済プラットフォーム、SETTLENETのサービスを開始した(発表資料)。これは一種のブロックチェーン(正確にはビットコインのサイドチェーンであるLiquid Network)を使い、日本円連動トークンとビットコインなどの暗号資産に価格が連動したトークンを即時決済するものだ。事務処理とリスク軽減のメリットが期待されている。
(2)「プログラムできるお金」を実現
お金に機能を持たせることができる。例えば冒頭で紹介した「勉強会」を主催するディーカレットは、KDDIグループと組んで、「プログラマブルなデジタル通貨」をKDDI社内の売店で利用する検証を行った。この検証では天候に応じて飲み物の価格を変える「ダイナミックプライシング」を実現している(プログラマブルマネー記事参照)。
(3)相互運用性を実現
複数のシステムにまたがって、安全な即時決済(アトミックスワップ)を実現できる。
これらの性質は、暗号通貨の分野で提案、実証されてきたものだ。また、特に(1)の即時決済は、ブロックチェーン技術を金融分野に適用する上でのメリットとして強調されてきた性質でもある。デジタル通貨とは、これらのメリットを現実世界のビジネスに取り入れようとするものだ。
日本はステーブルコインで後手に回る
暗号通貨分野では、米ドルなど法定通貨に対して価格が安定している「ステーブルコイン」がすでに存在している。これはデジタル通貨の一種だ。特に米ドル連動のステーブルコイン「Tether」は、統計サイトCoinmarketCapによれば暗号資産の中で4位の時価総額を持つ。Tetherは準備金不足の疑惑があり訴えられている最中なのだが、それにも関わらず人気がある暗号通貨となっている。
これ以外にも、別の運営主体による米ドル連動の「USDC(USD Coin)」や、スマートコントラクト(ブロックチェーン上で自動執行されるプログラム)によって価格を安定させる米ドル連動の「DAI」など、多くのステーブルコインが登場している。つまり、デジタル通貨はすでに市場に流通している。
ただし、ステーブルコインを取り扱っている取引所は日本にはない。日本の法規制でステーブルコインをどう取り扱うか、方向性が定まっていないからだ。日本でも「Zen」「WJPY」「L-JPY」といった実験的なステーブルコインの試みはあるが、本格的に市場に投入されたものはなかった。前述した、クリプトガレージのSETTLENETで使われる「SETTLENET JPY」(JPYS)は「プロ向け」という制約はあるが、日本で商用利用に適用できる最初のステーブルコインである。
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