インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?:スペースシャトル以来9年ぶり(3/4 ページ)
米国の宇宙ベンチャー・SpaceXはNASAの宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げに成功した。アメリカからの有人宇宙飛行は2011年のスペースシャトル以来9年ぶり。民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーションに接続するのは初めてのことだ。
アマチュアでのロケット作りから夢の実現へ
稲川氏は、トム・ミュラー氏に強くシンパシーを感じている部分がある。それはアマチュアとしてロケット開発を始めたことだ
稲川氏自身、学生時代からアマチュアとしてロケット開発に取り組んでいた。東京工業大学と大学院でロボットを学びながら、独学で論文や本を読み、ロケットを作っていたという。インターステラテクノロジズに入社したのは2013年。同社で宇宙開発を進めていく中において、トム・ミュラー氏は大きな存在だったという。
「自分で調べてトム・ミュラー氏の論文を読んでいました。追っかけのファンでした(笑)。90年代の後半には、ロケットエンジンをスペースシャトルの10分の1の値段で作れると論文で書いていて、未来を描いている人だと思っていました。それが有人宇宙飛行まで達成したのです。
あまり発言をしない人ですが、先日の打ち上げ成功の時には『Sometimes dreams do come true!』とtweetしていました。夢は時々かなうということですね。アマチュアでロケットを開発しながら無謀ともいえる夢を見ていた人が、イーロン・マスク氏と出会い、時代が合ったことで、創業からわずか20年弱でその夢を実現しました。
トム・ミュラー氏が短い期間で歴史的な成果を残したことは、非常に励みになります。同じやり方をすればわれわれにもできるはずです。もちろん、いまのSpaceXが完璧なわけではありません。彼らが達成したことを追いかけながら、どのように新しい形をつくっていけるかを考えていきたいと考えています」
日本でも民間のプレイヤーがもっと増えるべき
アメリカとは大きな差があるとはいえ、日本でも民間企業による宇宙産業への参入は広がりつつある。日本では宇宙ベンチャーが2015年頃から増え始めて、現在は30社から40社ほどあると見られている。
今年4月には、航空事業などを手掛けるヴァージングループ傘下のヴァージン・オービットが、航空機を利用した小型衛星の打ち上げ事業を大分県国東市にある大分空港で実施することが明らかになった。ヴァージン・オービットは2017年設立。大分空港からの打ち上げは22年から実施予定で、同じ事業をアメリカやイギリス(英国)でも展開する予定だ。
ヴァージン・オービットの事業は、インターステラテクノロジズが2023年頃の実用化を目指している小型衛星打ち上げロケット「ZERO」と競合する。それでも稲川氏は「民間のプレイヤーは増えるべき」と主張する。
「民間のプレイヤーが増えること自体はいいことだと思います。航空機を利用した衛星の打ち上げには、いつでも打ち上げることができるという時間的な余裕や、打ち上げる方角の自由度があります。それに対して当社のZEROは、コスト競争力で分があると思っています。それぞれの特性から市場が分かれていくのではないでしょうか」
一方で稲川氏は、宇宙関連の事業がもっと民間に任されることも必要だと話す。日本の宇宙開発はJAXA(宇宙航空研究開発機構)が最先端を担っているが、アメリカで有人宇宙飛行がNASAからSpaceXへと変わったように、日本でも民間の力を活用する時期にきているという。
「最先端のことはJAXAでなければできませんし、打ち上げの技術、開発能力などは、当社はJAXAには太刀打ちできません。しかし、そのJAXAでもできないことはたくさんあります。有人宇宙飛行ロケットを作れないことも、その1つです。
だからこそ、民間の力を活用することで、日本ならではの宇宙開発をもっとできるのではないでしょうか。民間に任される事業が増えれば、競争が促されて、開発費用が安くなります。政府やJAXAには民間をうまく使ってもらいたいと考えています」
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