インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?:スペースシャトル以来9年ぶり(4/4 ページ)
米国の宇宙ベンチャー・SpaceXはNASAの宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げに成功した。アメリカからの有人宇宙飛行は2011年のスペースシャトル以来9年ぶり。民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーションに接続するのは初めてのことだ。
新しい世代の育成が必要
稲川氏は、日本では宇宙産業に対する一般の人の理解が、まだまだ進んでいないと感じている。気象衛星やGPSをはじめとして、生活に身近な技術はこれからも増えていくことが予想されるが、そのことを分かりやすく伝える情報が足りていないという。
「日本人でGPSの原理を知っている人は少ないですし、気象衛星の重要さを分かっている人も多くないと思います。確かに難しい部分はあって、例えば自分の母親に説明しようと思うと、すごくハードルが高いのは事実です。
とはいえ、宇宙開発に関することは、知ってもらえれば興味を持ってもらえると思っています。私も大学の講義などは可能な限り引き受けていますし、いい方法がないか模索をしています」
稲川氏は、SpaceXがクルードラゴンを打ち上げる直前に、YouTubeに「ロケット大学 いなチャンネル」を開設した。最初にアップした動画では、SpaceXの有人宇宙飛行がどれほど意義のあることなのかを分かりやすく伝えた。一般の人にもっと宇宙事業のことを知ってもらいたいという思いだった。
「JAXAは広報活動に多額の予算を計上しています。JAXAのYouTubeチャンネルには20万人が登録していて、ロケット打ち上げの映像はかなり再生されていますが、記者会見などの動画の再生回数は1万回前後です。
YouTubeでは素人の方の動画でも、1万〜2万回再生されていますよね。当社のファウンダーの堀江貴文さんが宇宙関係の話をすると、10万回以上、再生されています。
宇宙開発のニュースは、メディアではそれほど感度高く取り上げられていません。私は堀江さんのようにバズらないにせよ、自分でもYouTubeでファンづくりみたいなことができればと思って始めました」
「いなチャンネル」の開設は、一般の人の理解を深めると同時に、人材育成の意味もある。アマチュアでロケットを開発していたトム・ミュラー氏が有人宇宙飛行を成功させた。稲川氏も独学でロケット開発を始め、2019年5月には小型観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」の宇宙到達を実現した。学ぶ場を増やすことで、新たな世代が育つことを期待している。
「航空宇宙関係の知識はアクセスするのが大変です。大学だと、東京大学など旧帝大クラスに進学しなければ学ぶことはできません。私は宇宙関係の本流ではない大学に通っていたために、独学で知識を身につけるのに苦労しました。それだけに、知識を得られる高速道路の整備が必要だと思っています。
多くの人に見てもらうことで、新たな世代を育成できるのではないでしょうか。宇宙産業が今後成長していくことは間違いないので、いまできることで時代を変えていきたいと思っています」
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
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