存在感を増す「応援する消費」から考える、マーケティングの意義:新連載・「新時代」のマーケティング教室(4/4 ページ)
東京都立大学で教授を務め、マーケティングに詳しい水越康介氏の新連載。今回は新型コロナで注目を集めている「応援消費」について解説するとともに、いま、マーケティングすることの意義について考える。
「売る術」ではないマーケティングを身に付けよう
最後に大事な点として記しておきたいのは、こうした応援消費もまた、自然と続くわけではないということである。この点は寄付と変わらない。寄付を1回する人はいるが、持続的に寄付をする人は日本人に限らず、世界的にみても限られている。コロナショックを経て、人々の消費行動も今後さまざまに変わることが予測されるが、急に寄付や応援消費に180度舵を切るわけではない。
それゆえに、生産者や企業の担当者としては、今こそ真の意味での「マーケティング」を学ぶ必要がある。ここでいうマーケティングとは、これまでの「単なる売る術」のことではない。マーケティングは、一つには交換を実現する術であることを意識してほしい。
寄付にせよ、応援消費にせよ、これらを持続させるためには、一方向的な形ではなく、「交換」を成立させる必要があるとともに、飽きさせずに交換を持続させる仕組み作りが必要になる。それが本来マーケティングと呼ばれる方法であり、考え方である。
インターネットやITが普及し、今回の事態を一つの契機にして、生産者や企業と消費者は新たな形で結び付けられた。つまり、これまで困っている人々を応援する方法だった寄付は、応援消費として、「交換」の形を型取り始めた。この交換を維持させ、促進させる方法こそ、マーケティングに他ならない。本連載では、こうした新しい時代のマーケティングについて、ITのもたらす変化なども踏まえながら、解説していく。
著者プロフィール・水越康介(みずこしこうすけ)
東京都立大学 経済経営学部 教授
2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。
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