存在感を増す「応援する消費」から考える、マーケティングの意義:新連載・「新時代」のマーケティング教室(3/4 ページ)
東京都立大学で教授を務め、マーケティングに詳しい水越康介氏の新連載。今回は新型コロナで注目を集めている「応援消費」について解説するとともに、いま、マーケティングすることの意義について考える。
応援する消費、という新たな形
特に日本では、寄付を行わない、あるいは寄付を行いにくい雰囲気がある。寄付をすることは素晴らしいことだが、それは少なくとも隠れて行った方がいいという陰徳の文化である。相手に引け目を与え、自身を優位に立たせてしまうような行為は、表沙汰になるべきではない、というような考えが背景にありそうだ。
その他にも、寄付に対する批判として、寄付は相手の自立を促すことができないともいわれる。寄付に頼ってしまう関係がずっと維持されてしまうということだ。これに対して、むしろ購入や消費であれば、ものを作ったり売ったりする活動が大事になる。これらの活動が伴うことで、当該者が寄付に頼ってしまうという関係を抜け出す機会が得られることにもつながる。この論理で運営されてきたのは『THE BIG ISSUE』である。ホームレスを救うべく、しかし彼らに寄付するのではなく、彼らに冊子を販売する機会を提供することで世界的に評価されてきた。今回の新型コロナで、ビッグイシュー日本も大きな苦境に陥っているが、Web上で販売することを「販売者応援」として位置付け、事態を切り抜けようとしている 。
応援する消費もまた寄付と同じように困っている人々を応援し、助けることができるとすれば、日本人としては「対等」である分、寄付よりも選択しやすく、さらに相手の自立の可能性もあるのならば、応援する消費の方が良いということにもなる。寄付をただ募るのではなく、応援する消費を喚起させる方が、お互いにとって幸せである。
ということで、徐々に外出もできるようになりつつある今だが、あらためて応援する消費、すなわち応援消費という形が存在感を増してきている。ものを選び、買い、消費することは、自分の必要のためだけにあるわけではない。その消費行為は、そのものを作った人々や企業を応援するためでもあるのだ。それは寄付よりもおそらく簡単で、ことさら隠匿する必要もない。むしろ、積極的にSNSにあげても大丈夫なはずだし、それ自体が応援にもなるだろう。
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