存在感を増す「応援する消費」から考える、マーケティングの意義:新連載・「新時代」のマーケティング教室(2/4 ページ)
東京都立大学で教授を務め、マーケティングに詳しい水越康介氏の新連載。今回は新型コロナで注目を集めている「応援消費」について解説するとともに、いま、マーケティングすることの意義について考える。
「寄付」と「消費」の違い
困っている人々を支援するため、寄付を行うことはとても自然である。では、困っている人々を支援するため、「何かを購入して消費する」ということは、同様に自然なことであろうか。直感的にいえば、消費するということは、寄付とは少し異なっているように見える。消費という場合には、相手よりも、自分の都合が優先されているように感じられるからである。
寄付と消費の中間に位置してきたのは、ふるさと納税かもしれない。しばしばふるさと納税が批判の対象となってきた一つの理由は、「寄付する」という行為と、「何かを購入し消費する」という行為が重なっているように見えるからである。牛肉をもらうために寄付をするという行為は、もちろん制度上ありうる話だが、何か、“もやもや”させるところがある。それは寄付とは言わない、という人もいるだろう。もちろん、制度的にいえば、そもそも税金だから寄付ではないという見方もある。
だが、青空レストランなどの例を見る限り、われわれは、生産者をはじめとする人々を支援し、応援するために消費することができる。消費するということは、やはり寄付にも似ていて、重要な応援行為になっていることは間違いない。誰かが消費し、購入しなければ、生産者や企業の多くは立ち行かなくなってしまうからである。
それに、寄付するよりも消費する方が簡単であるとともに、一種の“軽さ”もある。寄付する場合は、どこか上から目線になってしまう気がするが、購入(消費)するというのならば、もう少し対等な関係であるように感じる。受け取った側も、対価を受け取るわけだから寄付ほどに引け目を感じることはないだろう。
もともと、寄付をはじめとする一方向的な贈与は、送る側と受け取る側に非対称的な関係を作り出す力を持っている。送る側が上の立場になり、受け取る側は下の立場になってしまう。一方、ものを売ったり買ったりするという場合、売る側と買う側は対等であり、ものとお金の交換が成立している。
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