野村克也と江本孟紀が語った「日米“プロ野球ビジネス”の決定的な違い」:野村克也と江本孟紀『超一流』の仕事術(2/2 ページ)
故・野村克也と江本孟紀の共著『超一流 プロ野球大論』の中からビジネスや部下の育成に関わる部分を抜粋してお届けする。前編では、日米のプロ野球ビジネスの違いや、地上波での全国放送がなくなってしまった日本のプロ野球ビジネスの課題を語った部分を公開する。
巨人戦の全国放送がなくなったビジネス的背景
野村: いや、実はこんなことがあったんだ。56年、メジャー・リーグの代表的捕手であるロイ・キャンパネラ(ブルックリン・ドジャース)に尋ねた。
「どのような配球が打者に打たれづらいのか?」
「簡単だ。そのピッチャーの1番いい球を投げさせればいい」
配球はそういうものではない。メジャー・リーガーのスピードとパワーと技術には到底、太刀打ちできないと感じたが、こと捕手のリードに関しては日本野球のほうが上だと思った。
64年に26勝を挙げてシーズンMVP、阪神をくだして日本シリーズMVPにも輝いた南海のエース・スタンカ。2ボール0ストライク、もしくは3ボール1ストライク。打者が「ストレートだけを待っている」状況だから変化球のサインを出すと、ことごとく首を振る。
「ストレートを投げたい。打たれたら仕方がない」
「野球とベースボール」の違いは、「将棋とポーカー」ほど違うとワシは思っている。将棋は先の先まで読む。対してポーカーは出たとこ勝負。
捕手の仕事は「1にリード、2に二塁送球、3に打撃」の順番だ。だから『生涯一捕手』のワシは、メジャー・リーグに魅力を感じなかったのだ。息子の団野村は、ワシを監督としてメジャー・リーグに送り込もうと考えていたらしいが……。
「日本初の1億円プレイヤー」
野村: そういえば、「日本初の1億円プレイヤーは落合博満(87年中日)だ」と思っているかたが多いと思うが、実はワシだ。南海のプレーイング・マネジャー時代、選手+監督の年俸で1億円を超えていた。ON(王貞治、長嶋茂雄)より多かったというわけだ。
まあ、いずれにせよ、日本のプロ野球、もっと魅力的にしないとな。
ワシが現役のころは、毎日、巨人戦の中継をやっていただろ。パ・リーグはほとんど放送がなかったけど。いまは日本テレビでも巨人戦を映さない。娯楽が多様化して、視聴者が野球以外に流れたということか。
江本: コマーシャルを入れる関係で、野球のように試合時間が確定していないスポーツは、地上波での生中継は難しいです。だから「Pay Per View」と言って見た分だけ料金を支払うCS放送とかケーブルテレビとかに移行しちゃったんです。
巨人戦の地上波全国放送がなくなったのにはそういう背景がある。その分、地方がにぎわい始めた。野村監督みたいな全国区はいいけど、僕らみたいな端っこにいる解説者は仕事が少なくなっちゃって。
フジテレビなんて、解説者が20人ぐらいいて、代わりばんこで出ている。だからテレビで地方出張もほとんどない。でも、いまは地方がすごいんですよ。
札幌、仙台、博多、名古屋、広島。昔ちょっと活躍した選手が、解説者として「大スター」です。広島の山内って思い浮かびますか?
野村: 山内新一か。
江本: (笑)さすがにそれはないでしょう。時代的にも、球団的にも。山内「泰幸」ですよ(広島95年ドラフト1位。新人王)。その泰幸が地方(広島)で大スターです。
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