新型車投入の横須賀線、“通勤電車ではなかった”歴史と「車両交代」の意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR横須賀線に新型車両のE235系が導入されると話題になっている。横須賀線はもともと軍用路線として建設され、その後、観光に使われる長距離列車、そして通勤電車へと役割が変わっていった。E235系投入は、通勤路線への変化という点で重要な位置付けといえる。
2020年6月、JR横須賀線向けの新型車両が姿を現し、ネットで映像が出回った。山手線の新型車両、E235系の横須賀線版だ。先頭車の形状は山手線と同じく、スマートフォンのような顔つき。ただしアクセントカラーは緑からブルーとアイボリーになった。これは横須賀線のラインカラーだ。青色が鮮やかで、玩具のような愛嬌もある。
山手線との違いはもう一つ、4号車と5号車にグリーン車が連結されている。このグリーン車2両は4月に総合車両製作所横浜事業所で落成し、4月21日に出庫した。この2両を新潟市の総合車両製作所新津事業所に回送し、ここで製造された普通車と組み合わせて11両編成が落成した。6月3日に新津駅付近で試運転が目撃されたのち、8日には横須賀線に向けて回送された。今頃は最終点検と試運転が行われているだろう。
先頭車から非常口が消えた
私が横須賀線向けE235系の映像をSNSでシェアしたところ、友人から「先頭車前面に非常扉がないんですね」とコメントが付いた。先代にあたる現役車両、E217系電車にあった非常扉が、E235系にはない。鉄道ファンの注目ポイントの一つが先頭車前面の非常扉だ。地下鉄用の電車は編成の前後に非常口の設置が必要とされている。
東京メトロ、都営地下鉄をはじめ、全国の地下鉄車両と地下鉄に直通する電車には非常口がある。だから前面の非常口の有無によって、それが地下鉄に対応しているか否かを判別できる。横須賀線は地下鉄ではないけれども、品川〜東京間、さらに総武快速線として錦糸町までは長いトンネルであり、ここを通る車両は地下鉄の規格にせよと定められていた。だから現在のE217系電車は前面に貫通扉がある。
この非常扉の設置基準は1957年に運輸省(現・国土交通省)が出した「電車の火災事故対策に関する処理方について」という通達による。1956年の列車火災事故を教訓に、旅客車両をA様式、B様式に分類し、地下線や指定した長大トンネルを通る車両はA基準が義務付けられた。ところが同年、別の列車火災事故が起きたため、さらに厳しいA-A様式が定められた。
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