「電車通勤」の歴史と未来 ITとテレワークで“呪縛”は解けるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが広がった。外出自粛から解放されたときにはどうなるか。それは「電車通勤」の在り方に関わる。長時間の満員電車が当たり前というのは“呪縛”だ。電車通勤が根付いた歴史を振り返ってみると……
3月頃から始まった外出自粛の呼びかけ、4月に出された緊急事態宣言によって、テレワークが始まり、ビデオ会議が普及した。特にビデオ会議は、オンライン飲み会というエンターテインメントを生み出した。新技術は遊び要素が加わると急速に普及する。筆者はフリーライターとして20年以上も「在宅勤務」だけれど、オンライン飲み会のためにZoomをインストールした。ただし仕事では使っていないから、今のところ遊び道具だ。
大型連休では「オンライン帰省」という現象もあるそうで、故郷の祖父母と孫が画面を通して楽しむ様子が報じられた。高齢者はIT機器を使うのが面倒に感じられると思う。実は私も若い頃ほど新しい技術に積極的ではない。しかし、友人の多くが導入し、話ができるとなればビデオ会議ツールを使ってみたい。孫の顔を見たくてITを克服する高齢者の気持ちも分かる。
テレワークについては、これまでは個人外注者、小規模事業経営者が多かったと思う。あるいは多忙なビジネスエリートが専用回線を使うイメージがある。しかし、VPN技術の発達によってセキュリティが確保されると、大企業が積極的に導入した。外出自粛によって、多くの企業が在宅勤務を導入しつつある。オフィスワークの形態は大きく変わった。
緊急事態宣言の終了は遠のき、テレワークの普及は進む。私たちが新型コロナウイルスを克服し、あるいは、新型コロナウイルスと共存する時代になって外出自粛が解けたとき、テレワークはどうなるか。一過性のものとして廃れるか、あるいは、新たな働き方として定着するか。それによって鉄道事業の運命は変わる。これは電車通勤の存亡に関わる事態だ。
多くの企業でテレワークが定着すれば、ギュウギュウ詰めの満員電車は過去のものとなり、自宅が“職場”になることから職住接近の時代が来る。そして大都市の人々は気付き始めた。長時間の電車通勤は異常事態。約60年にわたる長い呪縛だったと。
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