JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
「鉄道の再生・復権は達成した。次の10年は生活の豊かさを起点とし、交流の起点となる駅などを生かしたサービスを創造して新たな価値を提供する」
JR東日本は7月3日、中期経営ビジョンに当たる「変革2027」を発表した。首都圏の輸送を担い、東北の路線網を維持してきた鉄道会社を、海外進出を視野に入れた生活サービス事業へと変革する。もちろん鉄道の重要性は追求する。「変革」には鉄道事業も含まれる。鉄道事業はいままで「お客さまを安全に目的地へお届けする」という責任を最重点項目としてきた。これからは責任に加えて、輸送の質も追求していく。
その意気込みがWebサイトに公開された資料から読み取れる。輸送の質を高めていく。そこで得られた技術と経験が、お客さまの生活向上にも役立っていく。理想的な生活産業の在り方を目指す。
「変革2027」の基本方針に驚かされつつも納得する。鉄道を起点としたビジネスから、ヒトを起点としたサービスに転換すると書かれているからだ。「もう鉄道は主力ではない。関連事業に主軸を移す」とも読み取れる。しかし、冷静に考えればこれは民間企業としては正しい考え方だ。大手私鉄は鉄道事業の比率が低い。不動産、流通などを沿線で多角的に展開し、観光については沿線外の地域まで対象としてきた。JR東日本も、ようやく大手私鉄のようなビジネスモデルのスタートラインに立った。
ただし、駆け出す足はすでに鍛えられている。Suicaが大きな筋肉となった。決済ビジネスだけではなく、ビッグデータを活用して客の行動を分析し、適材適所のサービスを提供する。JR東日本の新たな展開の鍵を握るアイテムはSuicaだ。逆に言えば、この発明なしにJR東日本の飛躍はなかったかもしれない。
関連記事
- 東京都の「選ばれし6路線」は実現するのか
東京都は「平成30年度予算案」に「東京都鉄道新線建設等準備基金(仮称)」の創設を盛り込んだ。2016年に交通政策審議会が答申第198号で示した24項目のうち、6路線の整備を加速する。6路線が選ばれた理由と、選ばれなかった路線を知りたい。 - 東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。 - 国鉄を知らない人へ贈る「分割民営化」の話
4月1日にJRグループは発足して30周年を迎えた。すなわち、国鉄分割民営化から30年だ。この節目に分割民営化の功罪を問う論調も多い。しかし、どの議論も国鉄の存在を承前として始まっている。今回はあえて若い人向けに国鉄と分割民営化をまとめてみた。 - 新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ
JR北海道は、当初の予定だった現駅案を頑固に否定し続けた。主な理由は「在来線の運行に支障が出る」「プラットホームの広さを確保したい」としてきた。しかし、真の理由は他にある。「エキナカ、エキシタショップの売り上げが減る」だ。JR北海道の10年間の副業を守るために、新幹線駅は未来永劫、不便な駅になろうとしている。 - JRの“大回り乗車”で房総半島1周 海を眺めて名物駅弁を食べる
JRの大都市近郊区間のみを利用する場合の「特例」を利用して、大回り乗車を楽しむ旅。今回は房総半島方面に向かう「海編」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.