JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
鉄道復権の30年間
国鉄の分割民営化、JR東日本の発足から30年。JR東日本は何をしてきたか。本来なら、国鉄時代に制限されていた不動産業や流通業をすぐにでも展開し、総合生活産業になりたかった。大手私鉄に対して30年も遅れて、いや、阪急電鉄の創業者である小林一三が発明した「沿線開発と鉄道のリンク」は1910年の沿線住宅販売だから、1987年のJR東日本発足の時点で70年以上も遅れていた。
しかも、鉄道沿線の有力な不動産に介入する余地はなかった。明治時代に建設された路線も多く、沿線の土地相場は上がっている。大手私鉄のように、原野に線路を敷き、土地の付加価値を上げるという「小林一三モデル」が使えない。いや、当時のJR東日本は他の分野に参入するどころではなかった。まずは国鉄時代に失いつつあった鉄道そのものの信頼回復に注力する必要があった。老朽化した施設を更新し、車両を交換し、事故や輸送障害を減らしていく。この30年間の投資の多くは鉄道の信頼回復に注がれていた。
鉄道輸送の責任を果たすという意味で、路線の廃止が少ないことも高く評価されるべきだ。国鉄改革時代に決まっていたローカル線の廃止(第三セクター転換)と、新幹線の並行在来線を手放した。しかし、赤字だけの理由で廃止された路線は1つもない。鉄道を廃止した路線は、岩泉線、バス高速輸送システム(BRT)化された気仙沼線と大船渡線の一部区間、三陸鉄道に移管する山田線の一部区間、上下分離化される只見線の一部区間だけだ。どれも被災からの復旧費用が廃止理由であって、災害がなければ、おそらくJR東日本はこれらの路線を維持し続けただろう。
赤字路線を抱えつつ、首都圏の路線網の近代化にも取り組んできた。ローカル線にも早期から新型気動車を投入している。そして、自社原因事故の低減への努力。新しい信号システムの開発。それでも輸送障害の根絶には至らない。国土交通省から何度も業務改善命令や警告を受けている。その都度、対策を強化し、新たな技術開発による解決を目指した。
ハイテク通勤電車E235系、時速300キロを超える新幹線車両は、技術面の努力のたまものだ。リゾートしらかみに代表される「乗って楽しい列車」の開発と、寝台特急を革新した「北斗星」「カシオペア」は、豪華クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」に昇華した。「便利な鉄道」「楽しい鉄道」の両方を追求し、鉄道の復権は成った。
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