新型車投入の横須賀線、“通勤電車ではなかった”歴史と「車両交代」の意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
JR横須賀線に新型車両のE235系が導入されると話題になっている。横須賀線はもともと軍用路線として建設され、その後、観光に使われる長距離列車、そして通勤電車へと役割が変わっていった。E235系投入は、通勤路線への変化という点で重要な位置付けといえる。
かつてはトンネル経由ではなかった
横須賀線と総武快速線はトンネルを経由して直通運転を実施している。この運行形態は1980年10月のダイヤ改正からだ。それ以前の横須賀線は地上の東京駅を発着していた。これは東京通勤圏ではちょっとした事件だった。この総武快速線直通と、その後の専用電車E217系電車の投入、そして今回のE235系への切り替えによって、横須賀線は「長距離列車」から「通勤電車」へと変化していく。それは東京の通勤圏拡大の象徴でもあった。
鉄道のトリビアとして「山手線の起点は品川、終点は田端」がある。東京〜品川間は東海道本線に直通、田端〜東京間は東北本線に直通している。運転系統の山手線は運行系統の愛称で、路線名としては厳密な区分がある。よく知られた知識だと思う。
それでは、横須賀線の起点と終点はどこか。終点は行き止まりの久里浜駅と分かる。起点はどこかといえば、大船駅である。大船〜品川間は東海道貨物支線、品川〜東京間は東海道本線に直通運転している。東京〜久里浜間の横須賀線は運行系統の愛称だ。特に、東海道貨物支線の部分は「新横須賀線」とも呼ばれている。
このような路線形態になった経緯を追ってみよう。
軍用路線として建設された
横須賀線は当初、陸軍と海軍が要請した軍用路線として建設された。海軍横須賀軍港と陸軍観音崎砲台を鉄道で結ぶルートである。JR横須賀駅が横須賀市中心部から離れている理由は、横須賀軍港近くに駅を作ったからだ。1889(明治22)年に大船〜横須賀間が開業した。中間には鎌倉駅、逗子駅が設置された。当初は大船〜横須賀間で旅客列車4往復、貨物列車1往復が設定されていた。1892年に旅客列車のうち1往復が東海道本線に直通した。当時はまだ東京駅がなく、新橋駅(旧駅、後に汐留貨物駅となり廃止)まで運行された。
横須賀線は軍部から要請された路線だったけれども、開通を機に、古都鎌倉は歴史観光地、海水浴療養地、別荘地として注目されていく。つまり、横須賀線の役割は軍用路線かつレジャー路線だった。
横須賀線の第一の転機は1909(明治42)年だ。東京駅が開業し、横須賀線列車の東京駅乗り入れが始まる。その少し前、東海道本線支線だった大船〜横須賀間に横須賀線という路線名が与えられた。軍部の需要が多く、輸送量も増加していったようだ。1914年から複線化工事が始まり、1922年には電化工事も始まった。1924年に大船〜横須賀間が全線複線化され、翌年に全線電化された。
関連記事
- 「電車通勤」の歴史と未来 ITとテレワークで“呪縛”は解けるか
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが広がった。外出自粛から解放されたときにはどうなるか。それは「電車通勤」の在り方に関わる。長時間の満員電車が当たり前というのは“呪縛”だ。電車通勤が根付いた歴史を振り返ってみると…… - 「東急8000系」誕生から50年 通勤電車の“いま”を築いた、道具に徹する潔さ
東急電鉄の8000系電車が、2019年11月に誕生から50周年を迎える。画期的な技術を搭載し、それらが現在の通勤電車の標準となった。“道具”としての役割に徹した8000系の功績を書き残しておきたい。 - 「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。 - 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。 - 東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか
東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら…… - JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.