それでも接触確認アプリを入れるべき3つの理由:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(3/4 ページ)
不具合の指摘や動作に関する怪情報も飛び交っているが、それでも接触確認アプリを入れてほしい。それは(1)大勢が使うことでアプリの有用性が増し、(2) 個人のプライバシー侵害などのリスクは考えられる限りで最小限であり、(3)このやり方がうまくいかない場合、個人のプライバシーを侵害する施策が打ち出される懸念があるからだ。
理由2:プライバシー侵害リスクは考えられる限りで最小限
接触確認アプリを入れてほしい2番目の理由は、「個人のプライバシー侵害のリスクは考えられる限りで最小限」であることだ。
インターネット上にはいろいろな怪情報が流れている。「政府が出すアプリを使えば、政府に情報が抜き取られるのではいのか?」「GoogleとAppleが協力しているそうだが、彼らに情報が筒抜けになるのではないか?」「Bluetoothを使うというが、電池の消耗が早くなるのでは?」「アプリは欠陥が多いようだ」等々、不安を誘うような情報も見つかる。
これらの声に対して短く答えるなら「心配のしすぎ」である。リスクは非常に少ない。得られるメリットは大きい。
例えば、政府機関が「接触情報が欲しい」と考えた場合でも、個人の特定につながる情報は決して取得できない。今回の接触確認アプリで採用したApple-Googleのフレームワークでは利用者本人以外には情報が渡らない。
今回、AppleとGoogleは、プライバシー保護に厳しい傾向があるヨーロッパの研究者たちを納得させたプライバシー保護の仕組みを構築した。Apple自身、Google自身であっても個人を特定する情報を抜き出せない仕組みを作ったのだ。
通信手段はBLE(Bluetooth Low Energy)と呼ぶ低消費電力を特徴とする技術を使う。精密に測ったわけではないが、筆者の体験ではiPhoneで使う接触確認アプリ1日分のバッテリー消費は、画面表示があるアプリ(ニュースやSNS)の1時間相当といったところだった。
現状の接触確認アプリは「プレビュー版」であり、多少の不具合がすでに見つかっている。このことに不安を覚えた人もいるかもしれない。バージョン1.0.0では、「導入時に例外的な操作をするとうまく先に進めない」「利用の開始日がその日の日付で表示される」といった問題が指摘されている。導入できた後は、基本機能そのものは動いている。
これらの不具合や、アプリ公開のやり方の背後にある問題点を指摘する記事もある。接触確認アプリ開発を行っていたCode for Japanの関治之氏が書いた記事は、ソフトウェアプロダクトとしてのリリース(公開)のやり方、そして国民に周知徹底する広報の体制に問題があると指摘する。
これは筆者の個人的な考えではあるが、こうした問題を認識した上で、筆者としては「なるべく大勢の人々がアプリを導入してほしい」と思う。今見つかっている不具合は「接触確認をする」という基本機能には影響を与えないし、プライバシー侵害や、その他の深刻な問題には結びつかない。今の段階で使い始めた方が、より早期から人々の接触履歴情報をスマートフォン内に記録できる。利用者にとって得られるものが大きいと考える。
今の接触確認アプリは現状はプレビュー版であり、オープンソースプロジェクトの開発も継続して動いている。プロジェクトで活発に開発者たちが活動している間は、アプリの内容も良くなっていくことが期待できる。
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