ようやくHVの再評価を決めた中国:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。
HVに有利な10年
ただし、2つの規制は対応の方向性と、規制の効果がまったく違う。
例えばCO2排出総量を30%削減しようとする時、ZEV/NEVのアプローチならば販売台数の30%をEVかFCVにしなければならない。CAFE/CAFC的アプローチであれば、65%をHV化するとそのくらいになる。車両価格を考えるとZEV/NEVを30%分売るより、HVを65%分売る方が実現性が高い。日本国内の実情に照らせば、EVなら今の15倍売らなくてはならないが、HVは今の2倍程度でなんとかなるからだ。
ZEV/NEVのアプローチにそのまま対応できるのは、小規模なEV専業に近いメーカーだけだ。規制の本来の目的は環境の改善であるに決まっている。罰則によってEV/FCVの普及が進めばいいのだが、それで環境改善が進まないのだとしたら、メーカーが罰金に苦しむだけで、規制は単なる経済成長のブレーキになってしまう。それがZEV/NEVの抱える課題なのだ。
ではCAFE/CAFCの方は各社がクリアできているのかといえば、こちらもクリアできた会社は少ない。というか、すでに本連載では何度か書いてきた通り、欧州の20年CAFE規制をクリアしたのはトヨタ1社である。それでも、1社とはいえクリアできたとすれば、やり方がある。それこそがHV車の普及である。
今の時点に限れば、後者のHV車普及の方が成果が大きい。こんな現実が、中国でも規制の見直しを促した。一党独裁の権限を徹底的に発動して、EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになったということだ。具体的には、従来「内燃機関(ICE)車両」と「NEV」の2つに分類していた車両区分に、新たに「低燃費車」を加え3分類にした。
25年規制値では全生産台数の内、25%分のNEVの生産が義務付けられることになっていたが、3分類化によって内燃機関車両のうち一部を「低燃費車」に置き換えれば、低燃費車分についてのNEVの義務付けが軽減され、CO2排出量に応じて、この25%が5〜12.5%に下がる。
つまり新ルールでは、低燃費車として最も燃費の良いHVを生産すればするほど、無理してEVを作らなくて済むことになる。要するにHVが増えてその結果EVが減る。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。
これはあくまでも現在の話であって、当然時代が進めば最適解が変わる。HVでは達成不可能なほど高レベルなCO2削減のためには、EVやFCVは必ず必要になるので、ゼロエミッションカーの販売を促進するZEV/NEV規制は今後も重要ではある。20年、あるいは30年先には、EVやFCVが普及価格に達し、その時には全車両ゼロエミッションを目指す時代がやってくる。そうなれば、再びHVがZEV/NEVから除外される時代が来るだろうし、それは環境対策として全く正しいことだと思う。
関連記事
- 新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化
新型コロナウィルスの登場によって、今まさに進行形で世界経済はパニックに陥っている。自動車産業も全体としては大変厳しい局面を迎えるだろう。5月発表の各社の決算は多くが赤字に沈むだろう。今手元にある材料で判断する限り、比較的復興が早いと思われるのは、米国と日本になるのではないか? - 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。 - 2020年の中国自動車マーケット(前編)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.