ようやくHVの再評価を決めた中国:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。
中国マーケットの未来
ということで、ここからしばらくは、中国でHVが強い追い風を受けることになる。当面の狙いは純内燃機関(ICE)車両の段階的削減であり、それらがHVに置き換えられることになる。
そうした時代背景の中で追い風が吹くのはどのメーカーかといえば、当然のごとくトヨタ。そしてホンダとe-POWERの日産ということになるだろう。
しかし今年の年頭に書いた記事の通り、いやあの時以上に中国のカントリーリスクが高まっている。今から中国でビジネスが大きくなることは喜ぶべきことかどうか分からない。
米国は、中国共産党による香港への国家安全維持法の押し付けに警告を出し続けてきたが、共産党はそれを強硬に推し進めてしまった。その結果米国は制裁として香港自治法案の制定に入り、すでに上院が同法案を可決した。下院が可決し、大統領がサインをすれば成立するが、これまでの流れからみれば、ほぼ間違いなく成立するだろう。
同法案では、香港の自治権干渉に関わった中国当局者の個人資産凍結だけでなく、制裁対象者と取引した米国の金融機関にも制裁が加えられることになっている。要するに間接的に加担するヤツも許さんぞということだ。さらにトランプ米大統領は、このまま進めば次のステージでは、香港に認めて来た優遇措置を撤廃すると表明している。
香港の優遇措置とは何かといえば、香港を、中国とは制度が異なる自由貿易国とみなして、米国の銀行に香港ドルの取引を認めていることだ。もし香港はすでに自由貿易国でなく中国本土と一体であるとみなした場合、香港の金融機関は、中国本土の銀行と同様に、米国の銀行から自由に米ドルを買うことができなくなる。小額の個人換金なら別だが、大口の換金マーケットは中国全土で、香港だけなのだ。それは香港が自由経済圏だという見方があったからこその話である。
これまで中国で営業してきた外資企業は、人民元→香港ドル→米ドルと換金することで、利益を自国に持ち出してきたが、香港の優遇措置が失われると、この窓口が塞がれ、中国で上げた利益は実質的に中国国内でしか使えなくなる。人民元を人民元のまま使わなくてはならないからだ。
グローバルな取引では、人民元は通貨として通用しないので、グローバル企業にとっては、米ドルへの換金ルートを閉鎖されることは中国でビジネスをする意味が失われることになる。
関連記事
- 新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化
新型コロナウィルスの登場によって、今まさに進行形で世界経済はパニックに陥っている。自動車産業も全体としては大変厳しい局面を迎えるだろう。5月発表の各社の決算は多くが赤字に沈むだろう。今手元にある材料で判断する限り、比較的復興が早いと思われるのは、米国と日本になるのではないか? - 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。 - 2020年の中国自動車マーケット(前編)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.