知られざる世界最重要企業 Appleチップを生産するTSMC:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(4/4 ページ)
AppleがIntelチップの採用をやめる。背後には、Intelがもはや世界一の半導体製造技術を持つ会社ではなくなり、最新の半導体製造技術はTSMCが持っているという事実があった。そのTSMCは、今や世界で最も重要な企業の1社なのである。
日本企業からIntel、そして台湾TSMCへ
21世紀の現役世代の読者には信じられない話かもしれないが、30年前には世界一の半導体製造企業は日本のNECセミコンダクターズだった。Intelがプロセッサに社運を賭けた理由は、当時Intelの主力製品だった半導体メモリの分野で日本企業との競争に敗れたからだ。
当時のIntelのCEOだったアンドリュー・S・グローブ氏が自著「パラノイアだけが生き残る」でその経緯を詳しく述べている。日本製の半導体メモリがIntel製品より品質が優れていると聞かされた時の反応を、グローブ氏はこう記している。「われわれの最初の反応は『否定すること』だった。そんなことは、あり得ない、と。この種の状況に陥った者なら誰もがするように、我々はその縁起でもないデータを激しく攻撃した。自分たち自身でその報告に間違いがないことを確認して初めて、製品の品質向上に取り組み始めたのである。だが、そのときにはすでに大きく遅れを取っていた」(前掲書より)
Intelは遅れを取り戻すことができず、1985年に半導体メモリから撤退する。その代わり、Intelは当時まだ業界での評価が定まっていなかった新しいカテゴリーの製品──マイクロプロセッサに焦点を移し、92年に半導体市場で売上1位のメーカーとなった。Intelは成功して現在も業界トップの地位にいるが、もしパーソナルコンピュータの台頭という時代の波がなかったなら、Intelは消えていただろう。
ちなみに、Intelを半導体メモリ撤退に追い込んだ日本メーカーはその後市場から消えていった。Intel製メモリに日本製メモリが勝った理由は「値段の割に品質が良かったから」だった。日本メーカーはその後も品質にこだわり続けた。一方で、アジアのメーカーからは程よい品質でより安価なメモリが登場し、品質にこだわり続けた日本製メモリは競争に敗れた。クリステンセン教授の破壊的イノベーション理論そのもののストーリーである。
そして今、Intelが半導体製造技術のレースで遅れを取っている。Intelも生き残りをかけてTSMCを技術で追い抜こうとしているが、結果はまだ分からない。Intel社内の奥まった会議室では、新たな戦略転換が話し合われているかもしれない。
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