“悪者扱い”の誤解解く発言も JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【前編】:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
リニアの静岡工区に関して、JR東海社長と静岡県知事による面談が行われた。この内容を把握するために、進行に沿ってツッコミを入れていきたい。今回は前編。注目は「静岡工区が悪者にされた」という誤解を解く発言と、東海道新幹線「ひかり」への言及だ。
大井川流域10市町首長に静岡市が入っていない理由
[0:01:43] 大井川流域10市町首長に静岡市が入っていない理由
金子社長が「知事と大井川流域10市町首長とのリニア関連意見交換会」の内容を踏まえていると発言。この意見交換会は6月16日に開催された。議事録の主な議題は「川勝知事と金子社長は面会すべきか」「ヤード工事を認めるか」であった。前者は賛成多数で、主な意見は「水への思いを知事から社長にしっかり伝えてほしい」。後者は反対多数で主な意見は「有識者会議の結論が出ていない」「有識者会議に失礼」だった。金子社長は「大変厳しいご意見がある」と語った。
川勝知事が金子社長との会談そのもの、そして論点のヤード工事に関して流域の市町と意見を合わせた。当然の手続きとはいえ、金子社長に伝わっているから話が早い。
ただし、意見交換会に静岡市が入っていないことが気になった。JR東海が求める3カ所のヤードは全て静岡市葵区だ。これに関しては静岡市の公式サイトに見解が示されている。静岡市は大井川問題を上流域の自然環境保持と中下流域における利水の2つに分けて捉えており、トンネル湧水を上流域に流すことをJR東海と協議中だ。静岡市長と金子社長は2018年に「中央新幹線(南アルプストンネル静岡工区内)の建設と地域振興に関する基本合意書」を締結している。大井川流域10市町は中下流域における利水問題であり、静岡市としては「対話による解決が図られることを望んでいます」という立場である。(参考リンク)
つまり「ヤード問題は中下流域の水利問題」であり静岡市の関心は薄い。ただし、ヤードに至る道は基本合意書でJR東海が建設すると定められ、静岡市に異存はない。
[0:01:40] 金子社長が反感を買う理由
金子社長は「ヤード建設についても水の問題をおろそかにするつもりはない」「なし崩しでトンネルの掘削を始めるつもりはない」「有識者会議を軽んじるつもりはない」と明言した。これは大井川流域10市町への不信感を払拭する意味で良かった。ただし、そこから始める「リニア中央新幹線」の意義とJR東海の責務の解説は長すぎた。川勝知事にとっては承前のことであり、大井川流域10市町もリニアの意義については理解している。その上で、静岡県以外の市町村の期待を説明し続ければ反感を買うだけだ。
関連記事
- 認識のズレはどこで起きた? JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【後編】
静岡県庁で行われたJR東海社長と静岡県知事の面談。進行に沿って解説する記事の後編。後半は「工事許可の手続き」と「川勝知事の同意のような返事」に注目すると、和やかに終わった面談後に、知事が「不誠実」と発言した背景も見えてくる。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実
台風19号の影響で北陸新幹線の車両が水没した。専用仕様のため、他の車両が代わりに走ることはできない。なぜJR東日本は新幹線車両を共通化していないのか。一方で、北陸・上越新幹線の車両共通化に向けた取り組みは始まっている。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.