“悪者扱い”の誤解解く発言も JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【前編】:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
リニアの静岡工区に関して、JR東海社長と静岡県知事による面談が行われた。この内容を把握するために、進行に沿ってツッコミを入れていきたい。今回は前編。注目は「静岡工区が悪者にされた」という誤解を解く発言と、東海道新幹線「ひかり」への言及だ。
川勝知事「全面的に協力したいと思っている」
[0:30:43] 川勝知事「全面的に協力したいと思っている」
金子社長は前社長時代にリニアの認可を受けた時を振り返り、「太田大臣(当時)から、工事は安全が大切、環境保全もしっかりやってくれ、地域との連携をしっかりやってくれ」と言われ、それをずっと続けているという。
この発言を受けて川勝知事は14年7月18日付の「環境影響評価書に対する国土交通大臣意見」から、「環境保全に関するデータや情報を最大限公開し、透明性の確保に努めること」「水道用水、農業用水、工業用水及び発電用水等に利用されていることから、河川流量の減少は河川水の利用に重大な影響を及ぼすおそれがある。このことを踏まえ、必要に応じて精度の高い予測を行い、その結果に基づき水系への影響の回避を図る」という部分に言及。
さらに、14年6月5日付の環境大臣意見より、「我が国を代表する優れた自然の風景地として南アルプス国立公園に指定されており、また、ユネスコエコパークとしての利用も見込まれることから、当該地域の自然環境を保全することは我が国の環境行政の使命でもある」「発生土の適正な処理、希少動植物の生息地・生育地の保護、工事の実施に伴う大気汚染、騒音・振動対策等、本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全について十全の取組を行うことが、本事業の前提である」と引用した。
川勝知事は続けて「その責任をJR東海は負われている。私どももこの方面で全面的に協力したいと思っている」とした。これは心強い。19年12月の静岡県議会で県側は「調査はJR東海が実施すべき」という認識を示したけれど、全面的と言うからには調査に必要な工事に関してもバックアップすると言ったも同然だ。
[0:30:43] 井川地区の事情を知事は知らなかった
工区の話題に戻り、ヤード工事現場までの道路が未整備な上、昨年の台風19号の被害で危険な状況になっているという認識で一致。この道は静岡市との協定でJR東海が整備することになっている。川勝知事からは道路の整備を急ぎ、現場で働く静岡県民の安全を確保するよう求めた。金子社長からは、救急車とヘリが使える状態にする、椹島(さわらじま)ヤードに看護師と救急救命士を常駐させると約束した。
川勝知事からは素朴な疑問として、JR東海が整備する静岡県道189号三ツ峰落合線よりも、静岡市道閑蔵線のほうが安全ではないかと質問した。これに対し金子社長は「井川地区との話し合いで静岡市道閑蔵線経由を提案した。しかし、トンネルを掘って静岡へ短絡してほしいという井川地区の悲願と言われた」と説明した。
JR東海が工事にあたり沿道に対して丁寧な対応をしてきたことが分かる。しかし、逆に、川勝知事がそのようなやりとりを知らないという点が気になった。川勝知事は全ての地域の実情を把握できていない。自分で行かずとも、報告は受けていない。あるいは見落とした。しかし、この失点は面談で理解すれば取り返せる。トップ面談をして良かったな、と思わせる一幕だ。
関連記事
- 認識のズレはどこで起きた? JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【後編】
静岡県庁で行われたJR東海社長と静岡県知事の面談。進行に沿って解説する記事の後編。後半は「工事許可の手続き」と「川勝知事の同意のような返事」に注目すると、和やかに終わった面談後に、知事が「不誠実」と発言した背景も見えてくる。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実
台風19号の影響で北陸新幹線の車両が水没した。専用仕様のため、他の車両が代わりに走ることはできない。なぜJR東日本は新幹線車両を共通化していないのか。一方で、北陸・上越新幹線の車両共通化に向けた取り組みは始まっている。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.