認識のズレはどこで起きた? JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【後編】:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
静岡県庁で行われたJR東海社長と静岡県知事の面談。進行に沿って解説する記事の後編。後半は「工事許可の手続き」と「川勝知事の同意のような返事」に注目すると、和やかに終わった面談後に、知事が「不誠実」と発言した背景も見えてくる。
ヤード工事を巡る「次のステップ」とは?
[0:57:00] ヤード工事には協定が必要
規定の1時間に近づき、再度金子社長から核心に切り込んだ。「有識者会議の結論が出るまでトンネルは掘らない。しかし、有識者会議で方向性(トンネルを掘ってもよい)が出た場合はすぐに掘れるように、ヤードを作る工事は今から着手したい」という趣旨だ。
川勝知事は「申し訳ありませんが」と前置きした上で、「有識者会議は国交省がJR東海に指示するための会議であり、静岡県としては、会議の結果を持ち帰り、水資源、生態系、地質の専門家会議で検討し、地元の方々に理解を得たところで次のステップになる」と返した。
ここで曖昧になっているところは、川勝知事の「申し訳ありませんが」と「次のステップ」の意味だ。金子社長は「申し訳ありませんが」を単なる前置きだと思ったかもしれない。しかし、「この場では返事はできませんよ」という意味の「拒否」とも受け取れる発言だ。そして「次のステップ」はどうか。金子社長は「トンネルを掘る」と受け止めた。しかし、川勝知事としては「ヤード工事着手」とも考えられる。「有識者会議が良しとしても、専門家会議を経てからでないとヤード工事のステップには進みませんよ」だ。この後に続く「有識者会議はエンドではない」という言葉ともつじつまが合う。
金子社長は期待して回答を急ぐあまり、早とちりをしているのではないか。ここを誤解したまま「その手前の工事」を認めてほしいと念押し、いや、懇願という態度だ。
川勝知事はこれに対して「分かりました」と返事をした。これはおそらく「金子社長の言い分を理解した」という意味で、「工事OK」という意味ではない。そして、リニアが作る東京〜名古屋〜大阪間のメガリージョンに理解をしつつも、識者によるリニアに否定的な意見を披露して、回答を急ぐ金子社長をけん制する。「コロナの影響で新幹線の乗客が減った」「リモート会議が普及した」など。これらの問題を踏まえてリニアに取り組まなくてはいけない。
さらに「ヤード工事に関しては、条例(自然環境保全協定)がある。今までは5ヘクタール以内だったからどうぞやってください、だった。今回は5ヘクタールを超えるから協定が必要だ」。これに対して金子社長は「協定の準備はもちろんする。しかし、キーポイントは(静岡県中央新幹線対策)本部長の難波副知事と、その上司である川勝知事のご了解だ」と要請する。
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