認識のズレはどこで起きた? JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【後編】:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
静岡県庁で行われたJR東海社長と静岡県知事の面談。進行に沿って解説する記事の後編。後半は「工事許可の手続き」と「川勝知事の同意のような返事」に注目すると、和やかに終わった面談後に、知事が「不誠実」と発言した背景も見えてくる。
しかし川勝知事は「最大の理解(を求める相手)は国民だ」とはぐらかした。続いて、有識者会議について全面公開としなかった国土交通省の態度を非難。国交省は金子社長にも、無礼ではないかとまで言及(金子社長は否定)した。新型コロナウイルス対策の専門家会議と比較し、国交省を「こわっぱ役人」と激しく断罪する。返す刀で、「われわれは運命共同体」とも言う。まるで「共通の敵を作れば仲良くなれる」というような幼稚な考え方だ。そして、専門家会議の公開と富士山一周をやってもらいたいと述べた。
リニア中央新幹線静岡工区に対する静岡県側の組織図。静岡県とJR東海が協議してきた会議は「中央新幹線環境保全連絡会議」の中に設置された専門部会で「生物多様性」「地質構造」「水資源」の3部会がある。今までは「専門家会議」または「有識者会議」と呼んでいた(出典:静岡県)
「国の有識者会議」は、県とJR東海の「中央新幹線環境保全連絡会議」の内容を検証し、JR東海の工事に対して具体的な助言、指導等を行っていく。しかし、静岡県は国の会議準備段階から「専門家会議」と呼んでいた。これは県の会議を「有識者会議」と捉え、区別するためと思われる。ところが国は「有識者会議」を正式名としたために、県の会議を「専門家会議」と呼ぶ人もいる。この面談では「国の会議」を「有識者会議」と呼び、県の会議を「専門家会議」と呼んでいる。話者によってどちらを意図しているか分からないことも、この問題を分かりにくくしている。
試される金子社長
[1:08:19] 試される金子社長
金子社長は苦笑いしつつ、身延線の活性化の話をする。そして一瞬、拝む手つきをしつつ、本題に戻す。「有識者会議を待たなければ(ヤード工事の)GOサインは難しいか。2027年開業の壁は越えられなくても、危機管理上は1日も早く着手したい」
この危機管理とは、事業遅延に対する諸問題とも取れるし、老朽化し改良工事が必要な東海道新幹線の危機とも受け取れる。その切実な声を遮るように川勝知事は切り返した。
「仮に、トップクラスの科学者や技術者が、水を全量戻せなかったとしたらどうしますか」
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