“すれ違い”が注目されたリニアトップ面談「それでも悲観しない」理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
リニア工事を巡るJR東海社長と静岡県知事によるトップ面談は和やかに終わったが、ヤード工事の認識ですれ違いが生じ、県側は再開を認めなかった。それでも悲観する結果ではない。報道や世論で対立を煽るのではなく、トップ同士が意思確認する場を作れたことをまずは評価しては。
静岡県の「面談と会議の公開」を支持する
そもそも静岡県とJR東海は対立していない。面談の冒頭で川勝知事はあらためて「リニアに反対ではない」と語り、金子社長も「地域の了解なしにトンネルは掘らない」と述べた。「環境を重視しつつ、リニア中央新幹線は推進する」で一致している。
特に、静岡県がYouTubeで中継したことを高く評価したい。静岡県がこの面談を公開し、国にも(国の)有識者会議の公開を求めている。実はこれは私にとって意外だった。
2019年8月の静岡県とJR東海の公開協議で、オブザーバーの立場だった難波副知事がJR東海の「水を全量戻せない」という発言に反発、それが静岡県の公式意見として報じられた。言い分としては正しいけれども、不規則発言は議事進行の妨げであり醜態である。今までどんな会議だったか分からないけれど、この状態を公開したら静岡県のイメージは悪くなる。協議を公開したいという意向はその反省だろうか。
あるいは、19年10月、国土交通省を交えた三者協議で、同省の水嶋鉄道局長が難波副知事らに対し、文書管理面で厳しく追及する場面があり、それに対して川勝知事が憤慨するという報道もあった。この一件がトップ面談における川勝知事の「(国交省の)こわっぱ役人」発言につながっていると思われる。
国交省は国の有識者会議について、有識者の自由な発言を重んじるため全面公開に懐疑的だ。しかし私は「公開」を望む静岡県の姿勢を支持する。静岡県民だけではなく、国民レベルの関心事である。今後の協議の透明性を維持する上でも、参加者の「国民に見られている」という意識は重要だ。これからも建設的な議論にするために、議事は公開してもらいたい。
メディアの「対立煽り」も終止符を打ちたい
静岡県とJR東海の溝が深まった理由は1年前にさかのぼる。19年5月30日に金子社長から「静岡県が原因で2027年の開業が危うい」という趣旨の発言があり、リニア中央新幹線の駅ができる沿線自治体が同調する声が出た。静岡県のせい、という包囲網が作られつつあった。
それを受けた静岡県知事が6月11日に「事業計画の年次を金科玉条のごとく相手に押しつけるのは無礼千万だ」と反発し、リニア早期開業を望む立場と、通過されるだけの静岡県のケンカ報道の様相を呈した。その背景には、日ごろからの静岡県民のJR東海に対する反感がある。それは例えば「新幹線を重視して在来線をないがしろにしている」「のぞみを静岡県内に停めない」「静岡空港の新幹線駅を拒否した」などがある。川勝知事の「金銭的補償」発言も問題の焦点を曖昧にした。一方で、リニア中央新幹線に対する沿線自治体や東名阪の利用者の期待がある。
蛇足ながら、その火に油を注いだネットメディア、という構図がある。主に県民感情に寄り添う地元紙と、リニアに期待する全国紙の報道合戦の様相を呈した。ネット時代、新聞不況という時代の流れの中で、新聞はネットメディアに進出。その結果、読者におもねり、PV(ページビュー)を獲得できる記事を発信しつづける傾向が生まれた。言いっぱなしで解決方法を見いだす姿勢がない。それどころか相手の非を責める論調も台頭し、「リニア反対」「リニア賛成」の対立世論が起きてしまった。PVの魔力に取りつかれた言論の地獄だ。
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