“すれ違い”が注目されたリニアトップ面談「それでも悲観しない」理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
リニア工事を巡るJR東海社長と静岡県知事によるトップ面談は和やかに終わったが、ヤード工事の認識ですれ違いが生じ、県側は再開を認めなかった。それでも悲観する結果ではない。報道や世論で対立を煽るのではなく、トップ同士が意思確認する場を作れたことをまずは評価しては。
川勝知事も分かっていたはず
しかし、JR東海が言わずとも、川勝知事は分かっていたはずだ。なぜなら、図面は面談の場で初見したわけではなく、6月12日に提出されていたからだ。見ていないはずがない。
だから、川勝知事の回答は2つしかない。「図面の中に土砂ピット、濁水処理設備がある。これを含む工事は認められない」あるいは「そこまでおっしゃるなら、トンネル本体そのものと付帯設備の解釈を変えるよう有識者会議に進言しましょう」だ。工事の範囲や対象の解釈については「中央新幹線環境保全連絡会議」にはかり、委員の了承を得れば可能だ。知事の働きかけでできる範囲だ。
それを、ヤード工事そのものについて、条例に基づき「自然環境保全協定」を締結すれば済む、と軽い口調で言い切った。これでは金子社長が「トンネル本体を掘らなければ可能だ」と判断しても無理はない。面談の冒頭で金子社長は、大井川流域10市町首長の意見を承知していると語った。つまり「トップ面談は可」「ヤード工事は認めない」を承知で面談に臨んでいる。それが意外にも明るい返事だから、川勝知事の鶴の一声を賜ったと思った。川勝知事からは「全面的に協力する」という発言もあった。
面談後に川勝知事が「手のひらを返した」といぶかったJR東海は、即時、その真意をただす書簡を副社長から副知事宛に送っている。これに対して、副知事の回答内容は静岡県の従来の対応をあらためて示した。皮肉なことに、今まで静岡県が発表してきた静岡県側の立場の説明として、最も分かりやすい文書になっている。「トンネル工事は全体でひとつの開発行為であり、個別の地域、施設について協定を締結できない」だ。
しかし、これに対するJR東海の文書「中央新幹線南アルプストンネル(静岡工区)におけるトンネル掘削の前段で行うヤード整備に関する確認について」によると、面談時に川勝知事より渡された資料では、静岡県側も「『活動拠点整備工事』又は『トンネル掘削工事』と区分して同協定の取扱いを分ける、新たな考え方を定められたように受け取れます」とある。
これを正しいとするなら、静岡県の考え方も曖昧だ。そもそも、トンネル全体が一つの開発行為というなら、従来の4.9ヘクタール以内の各拠点工事さえ協定違反となる。なぜ静岡県はこれを黙認しているか。
川勝知事のリップサービスのような面談の発言がJR東海の誤解を生んだ。静岡県側の事務方も困惑したと思われる。動画が残っている以上、川勝知事の発言は誰もが見られる。今回の面談の冒頭で金子社長は以前の失言をわびた。次回の面談では、川勝知事から「誤解を生じさせてしまった」と一言あるべきだ。
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