“すれ違い”が注目されたリニアトップ面談「それでも悲観しない」理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
リニア工事を巡るJR東海社長と静岡県知事によるトップ面談は和やかに終わったが、ヤード工事の認識ですれ違いが生じ、県側は再開を認めなかった。それでも悲観する結果ではない。報道や世論で対立を煽るのではなく、トップ同士が意思確認する場を作れたことをまずは評価しては。
JR東海の「お願い」の真意とは何か
JR東海が求めている「ヤード再開工事」はもともと静岡県が許可できる内容ではない。だからこそトップ面談で「知事にお願い」したわけだ。
JR東海が6月12日付で提出した「中央新幹線南アルプストンネル静岡工区における工事の準備の内容について」を見ると、再開したいとする建物工事の中に「土砂ピット」「濁水処理設備」が入っている。
土砂ピットはトンネル掘削で排出された土砂を運び出す前に一時的に保管する場所だ。濁水処理設備はトンネル掘削時に出た泥まみれの水を浄化する設備。静岡県はこの設備について「トンネル本体工事と同じ」と考えている。トンネルを掘らなければ不要な設備だから、この説明は筋が通っている。
一方、JR東海は「これらの施設はトンネル本体ではない」としたい。トンネル本体を掘ったら使う設備だから、トンネルを掘る前に作っておきたい。だから「準備工事」という言葉を使っている。JR東海の「お願い」は「ヤード工事を再開させてください」と全体的な工事を指すようで、本心は「土砂ピットと濁水処理設備をトンネル本体と見なさないでほしい」だ。面談でも金子社長は「トンネル本体は掘りませんから」と何度も言う。それは「県のトンネル本体の解釈を変更してもらえないだろうか」という意味だろう。だったらはじめからそう言えばいいのに。
金子社長がハッキリ言わなかった。あるいは川勝知事のはぐらかしのような発言に押されて言い出せなかった。面談の動画では書面を見せて指さすようなしぐさをしていたけれども、視聴者は確認できない。
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