コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発:専門家のイロメガネ(2/5 ページ)
TVゲーム「桃太郎電鉄」や「シムシティ」は、戦後日本の都市開発を単純化したものだと言えるだろう。当時の日本では、阪急や西武といった私鉄各社が都市開発をリードしていた。コロナにより働き方や購買行動が変化することで、都市開発、不動産開発がどのように変化するのか。今後のビジネスの変化についても考えてみたい。
コロナで、働き方が変化したのはごく一部
”今後はリモートワークが増えて都市から地方に移動する人が増える”……まことしやかに言われている話だが、緊急事態宣言の解除により6月1日には電車の乗客が一気に増えたことからも、そのような人はごく一部だろう。
加えて都市部の利便性は、会社に近いことだけではない。都市部は人口が密集しているため、人口の少ない地域と比べて、同じ土地面積でより多額の収益を得られる。結果として、娯楽施設から劇場まであらゆる商業施設が密集しているため、当然のことながらそれに合わせて公共施設から病院、交通網までそろっている。したがって通勤が不要だから都市部に住む必要性はない、というほど単純な話ではない。
そしてコロナが収まればリモートワークはさらに減るだろう。緊急事態宣言の真っ最中でも、週に何度かは通勤していた人も多数いたように、少なくともすべてのオフィスワークが完全にリモートワークへと移行するとは考えにくい。
今はリモートワークが可能な会社で働いていても、転職すればリモートワークが可能かは分からない。結局は、軽々しく地方に移住なんてできないということになる(その分、リモートワーク完備の会社は人気になるだろう)。
働き方の変化がごく一部なら、都市開発にも不動産開発にも大して影響はないはずだ、と思われるかもしれないが、ここがマーケットの面白い部分だ。一部とはいえ完全なリモートワークを実施する企業が生まれた結果、数パーセント程度の人が郊外に移り住んだり、一部の企業が都心部のオフィスを縮小したりするとどうなるか。
マーケットは「オークション」である
不動産を含めてあらゆるモノは市場で取引される。市場取引の原則は最高値を付けた人が買えるオークションだ。このとき「不動産オークション」から一部の人が抜けるとどうなるか。オークションは参加者が減れば価格が下落する。それがわずかであってもだ。
ネットオークションで入札をしたことがある人ならば、最後まで競り合う相手がたった1人しかいなくとも「コイツさえいなければもっと安く買えたのに」という経験をしたことがあるだろう。これと同じことが不動産市場でも起きる。コロナによる変化は生活や働き方の変化のみならず、コロナ不況による住宅の買い控えや、業績悪化によるオフィス・店舗の閉鎖も含まれる。
賃貸に住んでいる人には関係ない、ということはなく、大家を通じて不動産オークションに参加している状態といえるため当然影響がある。どれくらいの人が不動産オークションから抜けるのか、それによってどれくらい価格が下がるのか、筆者はマーケット予想をするつもりはないが、影響がないとは考えられない。そして小さな変化が大きな変化につながる可能性も十分にある。
さらに、不動産市場に影響を与える要素は働き方の変化にとどまらない。ゴールデンウィーク中の成田空港の出入国数が、前年同期比で99.8%減とほぼゼロになったように、コロナの影響がまだ強く残る海外からの旅行客はしばらく見込めない。いつまで影響が残るかは不明だが、一時的にはホテルの不動産取得の需要は激減するだろう(苦境に立たされたホテルを底値で買収する企業は現れるかもしれないが)。
近年の都心部では住宅(マンション)・オフィス・ホテルで土地を奪い合うといった様相を呈していたが、コロナの影響で三者とも不動産オークションから離脱するという異常事態により、価格変動にはマイナスの影響が発生している。
ただ筆者は、それによって首都圏の土地価格が大暴落するとは考えていない。前述の通り都市部の利便性は高く、働き方の変化は一部にとどまる可能性も高いからだ。元々首都圏、特に東京の不動産価格は極端に高く、新築マンションは年収の13倍と全国平均の2倍近くであり、夫婦共働きで高収入でないと手の出ない水準になっていた。適度に下がるくらいならむしろ買いやすくなってちょうど良いといったところだろう。
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