テレワークの「リバウンド」はなぜ起きる? 「意識が低い」で片付けられない構造的な問題:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、テレワークを導入した企業が急増した。ただ、緊急事態宣言解除後は実施率が低下している。テレワークが定着しなかった企業は「意識が低い」のか。筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。
小さな会社が多い国
では、なぜこれらの2カ国はテレワークが普及していなかったのか。日本のようなハンコ業務があるからか。「とにかく雨が降ろうと槍が降ろうと会社に定時出社するのがサラリーマンの鏡」のような社畜文化があるからか。
そうではない、実はこの2カ国は「小さな会社が多い国」として知られているのだ。
『「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か』の中で詳しく紹介したが、伝説のアナリストとして知られるデービッド・アトキンソン氏が、OECDのデータを基にして「従業員20人未満の企業で働く人の割合」の国際比較をしたところ、イタリアは30.9%だった。同じ指標で日本が20.5%ということを踏まえると、「小さな会社」がかなりあることがうかがえよう。
一方、韓国も小さい会社のパラダイスだ。韓国経済研究院(韓経研)によると、17年12月末の韓国の企業数は310万9159社で、そのうち大企業は2716社しかなく、310万強は中小零細企業である。労働者は日本の4割程度しかいない韓国に、日本とそれほど変わらない中小零細企業が溢れていることからも、日本よりも小さな会社で働く人の割合が高いことは容易に想像できよう。ちなみに、韓国の大企業比率は、OECD加盟34カ国のうち33番目という小ささである。
「小さな会社が多い国」はテレワークが普及しない。このシビアな現実を逆説的な証明しているのが、米国だ。
85%とダントツにテレワークが進んでいるのは、「経営者や管理職の意識が高い」わけではない。OECDデータに基づいた「従業員250人以上の企業で働く人の割合」で見ると米国はダントツに高い。米国でテレワークが普及しているのは、「大企業が多い」という産業構造に基づいた科学的な現象なのだ。
それはつまり、テレワークの普及というのは、「意識をあげよう」とか「新しい働き方を定着させよう」といった精神論では乗り越えられない問題なのだ。
もちろん、イタリアも韓国も新型コロナの影響で今はテレワークの普及は劇的に進んでいる。しかし、だからといって、これが定着するのかというと疑問だ。日本同様に「小さい会社の割合が高い」という産業構造は何も変わっていないので、日本のテレワークが一過性のムーブメントで終わろうとしているように、イタリアや韓国のテレワークも時間の経過とともにコロナ以前に戻ってしまう可能性が高いのである。
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