英が一転5G排除、中国ファーウェイに迫る次の「Xデー」:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/4 ページ)
7月14日、英政府が5G通信網からファーウェイを排除すると発表した。欧州各国はアメリカによる同社排除以降、中国との関係を深めたが、コロナ禍で悪化した対中感情などが背景にあると見られる。また同社は2020年前半の決算を、英政府発表の前夜午後11時すぎにひっそりと発表しており、カナダで拘束中の孟副会長の2度目の審理日「Xデー」が近いともされている。
排除にも巨額コストがかかる欧州の事情
欧州は、米中両国との関係、そして経済合理性の間で難しい選択を迫られた。中国の経済力が急成長する中で、欧州各国は中国との関係を深めていたからだ。特に英政府は、10年に同社と協力し、顧客が自社製品のリスクを評価できるサイバーセキュリティー評価センターを設立するなど近い関係にある。
これらの事情から、欧州は米国の強硬姿勢とは一線を引いた。フランス、ドイツがファーウェイの参入容認を表明し、20年に入って英政府も、ファーウェイ製品の採用を限定的に認める決定を下した。それに応じるように、ファーウェイは2月27日にはフランスで2億ユーロ(約240億円)超を投じて通信機器工場を新設すると発表。イギリスやスイスにも相次いで5Gの研究拠点を設けた。
英政府の「限定的な参入容認」に、トランプ大統領は激怒したとされる。だが、既にファーウェイの通信機器を採用している各国からすれば、排除するにも巨大なコストがかかり、消費者の通信コストの上昇にもつながる。
経済合理性を考慮した結果、欧州はファーウェイ排除を選択できなかったのだ。
コロナ禍で反中感情高まり情勢変化
その英国の態度が変わった一因は、コロナ禍だろう。感染者、死者が多く、経済的打撃が大きかった国ほど、「ウイルスをばらまいた国」として対中感情が悪化した。トランプ大統領はコロナ対応の失態を隠すために、米中関係を政治利用している面もあるが、中国に続いて感染爆発地となった欧州でも、中国への反感が高まり、政治家からファーウェイ排除を求める声が強まっていた。
そして米政府による輸出規制から1年経った20年5月、米国がファーウェイに追加制裁を発動したことで、英政府も方針転換を検討せざるを得なくなった。追加制裁は、米企業が生産した製品だけでなく、米製装置で作る半導体の輸出も9月から禁じている。これは、ファーウェイが生産を委託している台湾積体電路製造(TSMC)からの部品調達を封じる狙いがあった。
ファーウェイは米政府の規制強化に備え、19年から一部半導体の生産をTSMCから中芯国際集成電路製造(SMIC)に切り替えてきた。SMICは、国家ファンドの支援を受けて成長してきた中国企業だ。TSMCとSMICでは、なお技術の隔たりが大きく、英政府はファーウェイがTSMCから必要な部品を調達できなくなれば、製品の安全を保てなくなると判断したようだ。
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