英が一転5G排除、中国ファーウェイに迫る次の「Xデー」:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(3/4 ページ)
7月14日、英政府が5G通信網からファーウェイを排除すると発表した。欧州各国はアメリカによる同社排除以降、中国との関係を深めたが、コロナ禍で悪化した対中感情などが背景にあると見られる。また同社は2020年前半の決算を、英政府発表の前夜午後11時すぎにひっそりと発表しており、カナダで拘束中の孟副会長の2度目の審理日「Xデー」が近いともされている。
産業界の負担考慮し7年で完全排除
ファーウェイは英政府の発表を受け、すぐさま「この決定により、英国のデジタル化が遅れ、消費者の通信費用が増加し、デジタル格差が深まる可能性があります。私たちは政府に対してこの決定を再考するよう強く求めています。遺憾ながら、弊社の英国における今後の発展は政治の影響を受けることとなりました。これは米国の貿易政策に起因するものであり、セキュリティ問題ではありません」と声明を発表(リンク)した。
英通信大手幹部は政府の発表に先立ち、5Gからファーウェイ製品を排除するなら5〜7年が必要だと主張した。BBCによると3年での排除を求める政治家に対し、英通信事業者最大手BTグループの幹部は「3年以内にファーウェイ製品をゼロにすると、顧客の通信が途切れる」と指摘し、コロナ禍で傷んだ経済に、さらに悪影響を与えると発言したという。
産業界の意見を受け、英政府は14日、21年以降ファーウェイ製品の新規導入を禁止し、27年までに5G通信網から全ての製品を排除するとの方針を示した。
午後11時すぎの決算発表に憶測
ロイターの報道によると、独通信キャリアのドイツテレコムは、逆にファーウェイとの協業を深めているという。だが、英国の方針転換は、欧州全体の対ファーウェイ政策の行方を一気に不透明にした。今後も、水面下での攻防は続くだろう。
英政府がファーウェイ排除を発表する前日の13日、ファーウェイは20年前半の決算を発表(同内容の日本サイトのリンク)した。売上高は前年同期比13.1%増の4540億元(約7兆円)で、純利益率は9.2%だった。
20年1〜3月期の売上高が前年同期比1.4%増の1822億元(約2兆8000億円)だったことを考えると、ファーウェイは逆風にもかかわらず、4〜6月期に相当盛り返していることがうかがえる。中国の経済再開やそれに伴う5Gネットワーク構築加速が、大きな助けになっているのだろう。
ただ、筆者にとって、決算の発表方法は奇妙に感じた。同社は例年なら夕方に決算を発表し、近年は記者会見も実施していた。特に今年は19年度の決算会見、5月のアナリストサミットともに、事前にメディアに連絡した上で、各国から100人近くの記者を集めてオンラインで開催した。
日本にいながら経営陣に直接質問ができるようになり、ファーウェイが各国のメディアと対話を深めようとしていると感じたが、今回の20年前半の決算は13日の午後11時ごろ(中国時間)、何の前触れもなく短いリリースとしてひっそり出された。筆者のメッセージアプリにリリースが送られてきたのは、深夜0時すぎだ。尋常な時間ではない。
このことについて、ファーウェイに近い関係者は「Xデーが近いから、目立たないようにしているのかもしれない」と明かした。
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