Facebookのヘイト対策に「大穴」 〜ザッカーバーグの矛盾とは〜:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(3/5 ページ)
米国で、Facebookにとって手痛い内容の報告書が公表された。報告書は、この2020年11月に米大統領選挙が控えている中で、差別問題やヘイトスピーチに対するFacebookの取り組みがまだ不十分であり、しかも「大穴」が空いていることを指摘している。
なぜ選挙に関するデマが問題となるのか
今まで述べてきたように、報告書は選挙に対する影響を特に重視している。その背後には、米国の公民権運動の歴史がある。1950年代半ばから60年代半ばにかけて、黒人らが平等な権利を求め抗議した「公民権運動」が盛んになり、差別を撤廃するための法律を作る動きが進んだ。
公民権運動の大きな成果とされているものが、選挙の妨害を禁止する「1965年選挙権法」の制定である。投票に資格を設けるなどして黒人の投票を妨害する取り組みが長年続いていたが、それを禁止した。この法律が制定される過程では、平等な選挙権を唱えるデモ隊を警察が暴力により排除し、死者が出た事件もあった(アラバマ州セルマの「血の日曜日事件」として知られている)。
このような歴史的経緯を見ると、「公民権」の監査で「選挙で投票を妨害されない権利」が最優先に挙がることの意味が見えてくる。例えば、報告書ではFacebookへの「移民局の職員が投票所で見張っている」「警察が投票所にいる」といった趣旨の書き込みを問題視している。そこでFacebookはそのような投票妨害の書き込みを積極的に削除するポリシーを強化した。
もう一点、非常に重要な背景がある。米国の大統領選挙が近いことだ。前回、16年の米国大統領選挙では、Facebookを舞台として、英ケンブリッジ・アナリティカ社による世論操作が行われて選挙結果に影響したとの疑いが持たれている。Facebookユーザー約8700万人分のデータが不正に持ち出されて利用されたとされている(英BBCの記事)。
ケンブリッジ・アナリティカ事件の再発を防ぐ意味もあって、Facebookは組織的な世論操作を発見しては潰す取り組みも進めている。例えば、Facebookは3月にロシアからアフリカ諸国を経由してFacebook上の世論を操作する動きを封じるため、49のFacebookアカウント、60のFacebookページ、85のInstagramアカウントを封鎖した(発表資料)。これ以外にも、世論操作の疑いの疑いがあるアカウントを封鎖する取り組みを公表している(発表資料PDF)。
「Facebookが20年の大統領選挙で世論操作に使われないようにすること」は、今回の公民権監査の重要課題だった。ところが、大統領自身の不適切発言を放置するなら、他の努力が帳消しになりかねない。
いったい、Facebook側はどのような理屈でトランプ大統領の発言を放置しているのか。マーク・ザッカーバーグCEOは何を考えているのか。
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