2015年7月27日以前の記事
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「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)

急行電車の混雑、歩きスマホ、エスカレーター歩行の理由は、数分であっても移動時間を無駄だと考える人が多いから。移動時間を短縮の工夫が重ねられてきたが、テレワーク普及によって移動しない選択肢も出てきた。しかし、移動が必要な場面はなくならない。価値が高い仕事や行動にこそ、リニアが必要になる。

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 ずっと心の奥に引っ掛かっている数々の疑問が、あるときスッと一つの解に集約され、その結論が新たな問題解決の道筋になる。そんな経験はあるだろうか。例えば「歩きスマホ」「エスカレーター歩行」「急行電車の混雑」「コンビニはしご酒」「カーオーディオ」、そして「リニア中央新幹線の必要性」。これらが全て「同じ理由」につながるとしたら、新しい答えが見えるかもしれない。

地下鉄を走る急行の意味

 「なんで地下鉄に急行があるんだろう」

 ある老舗ゲームメーカーの社長がSNSに投稿した。私が会社員時代にお世話になり、今も親しくさせていただいている。何しろ数年前の投稿で記憶が曖昧だけど、コメント欄に「所要時間は数分も変わらないのに」「目の前で通過されると残念な気持ちに」という声が寄せられていたと思う。これが今まで、心の奥に引っ掛かっていた。

 彼の言う地下鉄は都営地下鉄新宿線だ。当時のダイヤは覚えていないけれど、現在は日中の午前10時台から午後4時台まで、20分おきに急行が走る。停車駅は新宿・市ヶ谷・神保町・馬喰横山・森下・大島・船堀・本八幡。これ以外の13駅を通過する。岩本町・大島・瑞江では急行が各駅停車を追い越すダイヤが組まれている。全区間の所要時間は約29分。各駅停車は約40分だから11分も早く着く。なかなかの俊足だ。

 しかし、全区間乗り通す人は少ないかもしれない。ほとんどの人は所要時間の差が10分以内だろう。両端の駅から中心あたりの駅まで時間差は数分だ。ちなみに社長の最寄り駅の曙橋は通過する。だから先の発言になった。ラッシュ時間帯でもないのに、数分早く着くだけの急行に意味があるか。そんなの走らせるくらいなら停車して乗せてくれ……うなずける。


地下鉄の急行運転に意味はあるか

 「その意味はですね……」とコメントしようとして、手が止まった。都心と郊外を結ぶ大手私鉄も急行電車を走らせている。そこにはちゃんと意味がある。それを以下のように説明しようと思った。しかし、地下鉄の急行運転には当てはまらない。

 例えば東急田園都市線の場合、中央林間から渋谷への所要時間は各駅停車が66分、急行が46分で20分も差がある。これは確かに急行を選びたくなる。しかし、同じ列車で比較して、途中のたまプラーザ駅からの所要時間は各駅停車が34分、急行が28分。その差は6分だ。朝の5分は貴重、というけれど、我慢できない時間ではないと思う。それでも急行を選ぶ人が多いから混雑する。

 乗客が急行に偏るから乗降に時間がかかり、停車時間が延びて列車が遅れるという、本末転倒な状況になった。そこで東急は2007年から朝の混雑時間帯の急行をやめて、二子玉川〜渋谷間を各駅に停まる準急に格下げした。これは当時、大きな話題になった。

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